「あの日、俺は山下雪とホテルでキスをした」
「……え、ちょ、何言ってるの…っ?」
急に告げられた衝撃的な言葉に、つい笑いさえ零れてしまう。
けれどそんな私にはお構いなく、陸は言葉を続けようと口を開いた。
「俺は山下雪のことは好きでもないし、どうも思ってない。だけど、俺は山下雪にされるがまま何度も唇を重ねた。仕事で会えないと言ったのは、……嘘だ。山下雪に指示されて、明里に嘘をついたんだ」
「…………うそ、うそよそんなの……!」
頭の中がグチャグチャになって、視界が歪み始める。
「明里は記憶喪失なんだ、忘れたい記憶だけを忘れてる」
「知らない…………っ!」
「今までおかしいと思ったことはなかったか?山下雪が急に会社をやめてしまったことに何の疑問も持たなかったのか?」
「違う…………雪は、そんな……」
「明里は木嶋さんの教育がか」
私はそれ以上何も聞きたくないと、必死に陸の胸を思い切り押し離した。
頭が割れてしまいそうなほどの激しい頭痛が私を襲う。
次第に立っていられないほどの激痛が走り、私の意識はまるで暗闇の中に吸い込まれていくかのように、そこでパタリと途絶えてしまった。
.
.
.



