あとはゆっくり吉田さんを落としていこう。
ゆっくりゆっくり好きにさせて俺なしでは生きられないようにして依存してさせる。
大丈夫。吉田さんはいつも俺と一緒にいる時は嬉しそうだし、恋人らしいことをするととても照れ臭そうに頬を染める。
俺を異性としてちゃんと見ている。
だから早く偽りではなく、本物が欲しい。
*****
ある日の放課後。
いつものように吉田さんと帰っていると恐れていたことが起きてしまった。
「…矢野くん」
「ん?どうしたの?吉田さん」
どこか落ち着かない様子で俺の名前を呼ぶ吉田さんに俺は優しく笑う。
今日もなんて愛らしいのだろうか。
「別れよっか」
「…え」
苦しそうで辛そうな吉田さんの言葉。
ガン、と頭を鈍器で思いっきり殴られたような衝撃が走る。
その衝撃に俺は思わずその場で足を止めた。
「片岡さんのこと最後まで付き合ってあげられなくてごめんね。だけどもう私には〝恋人〟は必要ないの」
「…」
にっこりと笑う吉田さんをただ黙って俺は見つめる。
いや正確には何も言えずに。
「今までありがとう」
吉田さんは笑顔で俺に礼を言うと俺に背を向け一人で再び歩き出した。



