「私も好きな人がいるんだ。矢野くんと一緒。どうしても振り向いて欲しいから恋人を作ってみることにしたの。どうかな?私たちが付き合ったら利害関係が一致しない?」


だから吉田さんのこの提案にも乗ることにした。


あくまでニセモノ。そう思えば気が楽だし、何よりうまくいけば幼なじみの彼女との関係がいい方向に変化するかもしれない。


「…そうだね。付き合ってみようか、俺たち」


そして俺に偽物の恋人ができた。



*****



吉田さんと付き合って半年が過ぎた。

吉田さんとの関係は偽物だと言うこともあり、人前でのみ、恋人らしい会話をしたり、一緒に過ごしたりするだけだった。人さえいなければ俺たちはただのクラスメイトだった。
キスをしたこともなければ手を繋いだこともない。
LINEは知っていたが必要な時しかしないし、休日も別に会うわけでもない。

俺たちは完璧なニセモノだった。


意外にもこの関係が俺はすごく好きだった。
飽きてしまえば、あるいはお互い想い人との関係がいい方向に変われば、それでおしまいの関係。

だが今はこの関係を終わらせたくなかった。

俺は吉田さんのことを愛してしまったのだ。
吉田さんが俺以外の誰か、特に男に笑いかけているとその笑いかけられた相手を排除したくなる。
吉田さんの愛らしい声を本当は誰にも聞かせたくない。
吉田さんが触れたもの全部、全部が欲しくなる。