奏が泣いていた。
 
 小学生の頃から長い時間を一緒に過ごしてきたけど、あんな顔をしている奏を見たことがなかった。
 
 顔をくしゃくしゃにして、大粒の涙をぽろぽろと流しながら、生田の名前を呼んでいる。
 
  あははっと豪快に大きな声で笑う、がさつで男勝りなあんたが……なんで、そんな顔して泣いているんだよ?
 
 バカだ。
 
 気付くのが遅かったんだよ。だから、早う引っ付けっていてたのに。幼馴染だから、腐れ縁だからと笑い飛ばしていたくせに。
 
「あんた……ほんなこつ、大バカばい」
 
「……うん」
 
 私は奏の隣に座ると、そっと頭の上に手を置いた。すると、奏が私の肩へ頭を預けてくる。
 
「……ごめんね……遥香……ごめんね……皆」
 
 それから奏は謝りながら泣いていた。私達はそれを見守るしか出来なかった。
 
 しばらくして落ち着き泣き止んだ奏を家まで送ると、私達は相原の家に集まった。
 
「まさかねぇ……」
 
「なんばしるん、生田のやつ……」
 
「奏ちゃん……大丈夫かな……」

  柏木が大きな溜息をつく。無言のまま、時間が流れていく。
 
「でもさ……あの子って本当に生田の彼女やか?」
 
 それまで黙っていた相原が口を開いた。
 
 
「彼女やろ?あげんイチャイチャ引っ付いとったし」
 
「うん、生田の顔もでれっとしとったし……なんで?」
 
「だってさ、生田って奏の事ば今でも好いとるっち、笠原達も言いよったやん?」
 
「奏ん事ば忘れるためかもばい?」
 
「うぅん……そっかなぁ?生田って優しかし押しに弱か奴やけん、ばり積極的な女子からぐいぐい来られてずるずるとって……さ?」
 
「……うん、有り得そう」
 
「やろ?やけん、ここは生田の妹に直撃してみらん?」
 
「妹っち、綾ちゃんに?」
 
 相原の突然の提案に柏木が尋ねると、相原は頷き、優希の方へと顔を向けた。
 
「そう、綾ならなんか知っとるかも?優希、連絡先しっとたろ?」
 
 相原がそう言うと、スマホを取り出した優希が生田の妹の綾へとメッセージを送った。優希と綾は、同小だけではなく、奏の繋がりで仲良く、また所属している委員会も同じ事から、綾の連絡先を知っていた様だ。
 
『突然ごめん。今、大丈夫?』
 
 ピロン♪♪

 『大丈夫ですよ~♪今、兄ちゃんと従妹との三人で買い物中なんでメッセなら♪』
 
『え?生田と従妹と??』
 
『そうです♪』
 
 謎は呆気なく解けた。やっすいラブコメ漫画か?と思わせるくらいに。優希は、先程の事をメッセージに書いて送った。
 
 そして、既読がつき、少し後に綾からの着信。
 
「優希せんぱぁいっ!!奏ちゃんが泣いてたって話し、ほんなこつですかぁっ?!」
 
 優希のスマホから綾の声が響いてくる。綾も奏がショックで泣いていた事に驚きを隠せない様だ。
 
 かくかくしかじかとメッセージで送った以上にこと細かく話す優希。
 
「実は私もですねぇ~、兄ちゃんと奏ちゃんの為に一肌脱ごうと思っとったとですよ~♪」
 
 それからも色々と話しを続けている優希を見ていた私の頭の中に、ある一つの事が思い浮かんだ。そして、優希に電話を変わってもらうと、その事を綾へと伝えた。
 
「わっかりましたぁ~♪」
 
 そう言い電話を切った綾。私はスマホを優希へと返すと、すっと立ち上がって、私をぽかんと見上げている三人へ声をかけた。
 
「さぁ、奏のところに乗り込むばい?」