月曜日。ノー部活デー。
 
 私は普段、一緒に帰る事の出来ない人と歩いている。週に一回だけの一緒に帰れる日。毎日、LINEしたり、土日の部活が終わった後とかにデートしたりはしているけど、やっぱり、一緒に帰れるというのは、とても嬉しい。
 
 三年の四月半ばに交際を始めた稲沢(いなざわ)(じゅん)君と。
 
 告白は潤君からだ。
 
 身長一七十五センチと大柄で、特に明るくも可愛いわけでもない私を好きになってくれた。
 
「どげんしたん?」
 
「……え……ううん、なんもなかよ」
 
 隣を歩いていた潤君が、不思議そうに私を見ている。私がじっと潤君を見ていた事に気がついたみたいだ。少し恥ずかしくなって俯いてしまう。
 
 学校から少し離れ、他の生徒もほとんどいない。ちょんっと潤君の手の甲へ自分の手の甲を触れさせる。私たちの手を繋ごうと言う合図。
 
 すると、潤君もその合図に気がついたのか、私の掌をぎゅっと握ってくれた。そして、自分の指を私の指へと絡めてくる。私も、それに応えた。
 
 身長は同じなのに、全く違う掌。
 
 早くからウェイトを使った筋トレとかをしているせいか、固くて力強い。そんな潤君の掌が大好き。
 
 こつんと肩をあてる。すると、潤君も肩をあててくる。
 
「……潤君、好いとおよ」
 
「うん……俺も……」
 
 ごにょごにょと小さな声で返してくれる。ちらりと見ると、耳まで赤くなっていた。
 
 


 
「ぶふぉっ!!」
 
 突然、私達の後ろから声が聞こえてきた。慌てて振り返ると。そこには同じ女バスの相原(あいはら)花田(はなだ)がにやにやとした表情でこちらを見ている。
 
「いや、うちらの事は気にせんで良かけん……続けて」
 
 私は自分の顔がとても熱くなっていくのが分かる。
 
「……好いとおよ」
 
「うん……俺も……」
 
 相原と花田が互いの手を握り、肩寄せあい、見つめながら言った。先程の私達の真似をしているのだ。傍から見るとあんな感じなんだろうか……余計に恥ずかしくなってきた。
 
「ちょっちょっ!!お前らっ!!」
 
 潤君が二人を止めようと必死になっている。笑いながら、潤君から逃げている二人。
 
「かぁーっ!!青春だぁっ!!私も早うイチャイチャしたぁいっ!!」
 
 相原が両手を高く上げて叫んだ。
 
「ごめんごめん。邪魔するつもりは無かったとやけど、偶然ね。二人ばからかってごめん。それじゃ、うちらは帰るけん」
 
 花田がへへへっと笑いながら私と潤君にそう言うと、一人で叫んでいた相原の手を引っ張りながら去っていった。
 
「全く……ごめんね、潤君」
 
「良かよ。あいつらも悪か奴らじゃなかけん。それに、あげんしてからかわれるって……悪くなかね」
 
「えっ?」
 
「だってさ、俺と秋音(あかね)が付き合っとらんやったら、絶対されんやん?秋音と付き合えて、こうやって二人で帰れるけんって……思った」
 
 潤君は途中から恥ずかしくなったのか、最後の方が聞き取りにくくなるくらい声が小さくなっていた。
 
 ふふふっ
 
 そんな潤君を見て思わず笑ってしまった。潤君は照れながら、頬を掻いている。そんな潤君の側に駆け寄ると、今度は私から手を繋いだ。
 
「ばり好いとぉよ」
 
 私達は中学生。まだまだ子供で、これから先の事なんて全然分からないけど、今、この瞬間だけは幸せだって事は分かった。