「つい最近になって、安藤が君のことをポロリとこぼしたんだ」

 以前のようにしつこくされることは減ったものの、機会があれば彼女は貴裕さんに秋波を送ってきた。それが最近になって、あまりに脈のない貴裕さんに恨み言を口にすることもあったという。

「まだ君のことを忘れてないのかと言われて、安藤を問い詰めた。君に嘘をついて、俺から引き離したと白状したよ。それに、あの女がラパンを閉店に追いやったことも」

「あの人が?」

 安藤さんは、人を通じてラパンのオーナーに接触し、彼女の父親が代表を務めるホテルにフラワーショップを出店しないかと持ちかけた。

「ずいぶんいい条件を出したらしい。ただひとつだけ、交換条件を出した」

「ひょっとして、ラパンを閉めること?」

「ああ。おそらく君の居場所を奪うことが安藤の目的だったんだ」

 ラパン閉店の裏にそんな取引めいたことがあったなんて。どうりで、オーナーが何も話してくれなかったわけだ。


 それだけじゃなく、安藤さんは貴裕さん側にも仕掛けていた。

 長年難航していたエテルネル・リゾートのヨーロッパ進出が進展するよう、父親の会社を通じて、向こうのエージェントに働きかけていたらしい。