よく晴れた空に浮かぶわた雲。少し緑がかった深い青の上に、明るい青空が広がっている。海から吹く風は少し冷たくて、夏の終わりの気配を漂わせていた。

 再会したのは、ほんの一週間前。この一週間で、私の状況は一変した。

 貴裕さんが、迎えに来てくれたから。一度は離れてしまった私と、貴斗を取り戻そうと頑張ってくれたから。今の私は迷うことなく未来を向いていられる。

「そろそろ時間かな」

 乗客と見送りの人達でごった返すフェリーターミナル。ボストンバッグを手にして立ち上がった貴裕さんが、隣に座る貴斗を見下ろした。貴斗は下を向いたまま、右手でしっかりと貴裕さんの手を握っている。

「貴斗」

 貴裕さんが優しく呼びかけると、やっと顔を上げた。

「……パパ、どこにいくの?」

 涙を目に溜め、震える唇で問いかける。一瞬つらそうに顔をしかめて、貴裕さんはしゃがみ込んで貴斗と視線を合わせた。

「お仕事でどうしても行かなきゃならないんだ。でもまたすぐに会いに来るよ」

 貴裕さんの言葉に、貴斗はふるふると首を振る。

「いやぁ、たかとさびしい」

 今にも泣きそうな声で訴える。貴裕さんは、そのまま貴斗をギュッと抱きしめた。

「……パパも寂しいよ」

 貴裕さんの声も、震えていた。

 貴斗が声を殺して泣いている。離れられないふたりの上に、無情にもフェリーへの搭乗を呼びかけるアナウンスが響いた。