「……あの夜から、俺の心は美海に捕らわれたままだ」
 貴裕さんの真摯な瞳が私を捉えた。夢のような言葉をもらって、心臓がトクトクと音を立てる。

「美海がいなくなった時、ちょうど俺は会社の方がゴタゴタしていてすぐに行動を起こせなかった。どんなに手を尽くしても見つからなくて、俺は内心ボロボロだった。でもそんな姿誰にも見せられなくて。周囲に気づくやつもいなかった。……美海だけだったんだ、俺が弱っていることに気づいて、情けないところを見せても変わらず傍にいてくれたのは」

 貴裕さんが私の左手を握り、引き寄せる。ポケットから取り出したのは、紺色の小箱だった。蓋を開けて私の前に差し出す。中にはきらめく石ののったエンゲージリングが入っていた。

「ようやく言える、美海、俺と結婚してください」

「……はい」

 私が頷くと、貴裕さんは一瞬顔をくしゃりと歪めた後、笑顔を見せた。小箱からリングを取り出し、私の左手の薬指にそっと嵌める。リングは私の薬指にぴったりフィットした。

「約束する。君と貴斗を必ず幸せになる」

「私も貴裕さんの事を必ず幸せにします」

 まるで誓いの言葉を交わしているようだった。見つめ合って、お互い笑みを浮かべる。ふいに真剣になった彼の瞳に吸い寄せられて、私は瞳を閉じた。


 潮が満ちてしまう前に戻らなければ、道が無くなってしまう。少し焦って早足で朝来た砂州を渡る。

 今度は、最初から手を繋いでいた。貴裕さんの手のひらはとても力強くて、君を一生離さない、そう言われているかのようだった。