ランチボックスを片付け、食後のお茶を淹れる。今日はレモングラスのハーブティーを冷たく冷やして持ってきた。

「今更だけど、美海って料理上手いんだな」

「ずっと父子家庭だったから、自然と家のことは私がするようになったの。料理は見よう見まねよ」

 それに、料理上手の素子さんが近くにいたことが大きい。母のいない私を何かと気にかけて、手料理を持ってよく家に訪ねて来てくれていたし、私もひぐらし荘に遊びに行って、素子さんの手伝いをして覚えた。

「ラパンでいつかお茶を出してもらっただろう。あの時食べたハーブクッキーも確か美海の手作りだったよね。すごく美味しかったから、よく覚えてる」

「そんな前のこと、よく覚えてるのね」

 私が感心して言うと、貴裕さんは少し照れくさそうな顔をした。

「美海と初めて会った時のことは、よく覚えてるよ。母の誕生日なのに仕事が忙しくて何も用意してなくて、なんとか仕事を終えてたまたま見かけたアトリエ・ラパンに慌てて駆け込んだんだ」

「私も、覚えてるわ」

 どんなに忘れたいと願っても、忘れることが叶わなかった貴裕さんとの出会い。

 まだ九月だというのに、昼間から降り続いた雨のせいで寒くて、お客さんがほとんど来なかった日。早めに店を閉めようとしていたところに駆け込んできたのが、貴裕さんだった。

「俺が疲れてるって見抜いて、花束ができるのを待つ間、お茶とお菓子を出してくれただろう。ハーブティも手作りのクッキーも美味しかったし、美海の気遣いが本当に嬉しかったんだ」

 あの日様々な偶然が重なって、今がある。ずいぶん遠いところに来たような気もするし、こうなることが必然だったような気もする。