紫音の綺麗な顔が視界に広がり、彼の黒髪がサラリと落ちて、また心臓が大きく跳ね上がる。

「俺は千帆に救われてばっかりだ、昔から」

 紫音は、少し掠れた声でそうつぶやくと、私の顔に手を添えて、真剣な顔になった。

「……俺と結婚して、千帆」

「え……」

「千帆がいない人生なんて、もう一生考えられない。千帆にもらったものを、一生かけて俺にも返させて」

 まっすぐな瞳でそんなことを宣言されたら、誰だって頭が真っ白になると思う。

 でも、じわじわと言葉の意味を理解できるようになって、なぜか涙腺が緩んでしまった。

 胸が、震える。紫音の言葉ひとつひとつに、こんなにも心が動かされる。

 何があっても、紫音を大切にしたいと、そう思える。

 私の未来にも、間違いなく、紫音が必要だ。

「うんっ、喜んで……っ」

 目尻に少し涙を溜めながら答えると、紫音も一瞬泣きそうな顔で笑った。

 自然な流れで、唇がチュッと触れ合う。

 幸せすぎて、脳が溶けてしまいそうだ。

「……いい? 千帆」

 艶っぽい声で耳元で囁かれたら、いくらなんでもどんな意味か分かる。

 私は緊張しながらも、こくんと頷いて、紫音の背中に手を回した。

『お前は、βじゃなくて変化型のΩだ。つまり、いつか俺がお前を襲う可能性が高い』

 自分がΩだと知ったあの日から、私たちの関係は少しだけ変わった。

 ずっと紫音は、フェロモンに振り回されてしまうかもしれない自分が怖くて、仕方なかったはず。

 だけどもう、そんな怖い想いを、紫音にさせなくて済むんだね。

 私たちはもう、番になったんだから。

「紫音、我慢してくれてた分、沢山触っていいからね!」

「ぶっ」

 勢いのある私の言葉に、紫音は激しく動揺して咽せている。

 そ、そんなに変なこと言ったかな?