「えーと、では……、よろしくお願いします」

「なんかやりづらいな……」

「いや、私もどうしたらいいのやら……」

 久々に私の部屋に、紫音がやってきた。

 あのパーティーから数ヶ月が経ちーー、私たちは三年生に進級した。

 紫音と三条君は新入生にしばらく追いかけ回される日々を送っていたけれど、ようやく少し落ち着いた頃。

 私と紫音は、十八歳の誕生日を迎えた。そう、番関係を結べる年齢に達したのだ。

 そして今、日曜日のお昼に、私たちはベッドの上で向かい合ったまま、うーんとお互いに難しい顔をしていた。

「紫音が私のうなじを噛んだら、番になれるんだよね……?」

「そう。でも、どのくらいの強さで噛んだらいいのか分からない」

「痛いのは嫌だなー」

 私服姿の紫音は、ノーカラーの白いシャツを着てるだけなのに、なぜか雑誌から切り抜いたワンシーンみたいになっている。

 ちなみに私は、パーカーにロングスカートという、じつにラフな格好をしている。


 特別な日になるはずだけど、私たちはいつも通りの雰囲気で、今日この部屋に集まった。因みに、うちの家族たちは今日は皆外に出ていていない。

「よし! ひとまず試してみよう! いつでもどうぞ!」

 覚悟を決めて、私は紫音に背中を向ける。

「……痛かったらちゃんと言ってよ」

 紫音も珍しく緊張してるようで、私の髪の毛を恐る恐るかきあげている。

 首が露わになって、少しスースーした。

 うわー! なんか緊張する!

 紫音の細い指が首に触れて、ドキンと心臓が高鳴る。

「咬むよ、千帆」

 紫音の吐息が少しだけ首にかかったのを感じると、歯が首に食い込んだ。

「っ……」

 ドクン、と血が一気に駆け巡るのが分かった。噛まれた瞬間、声にならないような甘い痺れが全身に走り、私は一瞬気を失いそうになる。

 この部屋で初めて紫音とキスした時のように、電流が体を駆け巡った。

 め、目の前が……チカチカする……。

「千帆、大丈夫……?」

 紫音の心配そうな声が聞こえて、私は首を縦に振った。

 体がなんだか熱い……。紫音はどうなんだろう。