紫音はすごく複雑な顔をしながら、私の涙を拭う。

「なんで泣くの。泣くことない」
 
「うっ、だって紫音が黙るから……っ」

「ごめん、三条のこと脳内でボコボコにしてただけだから。普通に怒りすぎて宇宙に意識飛んでた」

 紫音は今度は優しく私の頬を撫でて、「千帆のこと嫌いになれるわけないでしょ」と言った。

 優しい声音に、また涙があふれ出そうになる。

「俺と千帆は番になるんでしょ? そうしたら、そんなことで悩まなくて済む。もうあと半年もない話だよ」

「へ……、あ、もうそんなに近いんだ……」

 たしかに、四月の誕生日になれば、私たちは番になって、私はヒートで悩むことはなくなる。

 もちろん、紫音以外の人に、フェロモンが作用することも……。

 すっかりこれからも悩まされていくことだと思ってたから、かなりほっとした。

「た、たしかに、あと半年で終わる悩みだね……⁉︎」

「そういうこと。まあ、たとえ千帆が他のαのフェロモンに当てられようと、関係ないけどね」

「そ、そうなの……?」

「うん、だって、千帆が好きなのは俺でしょ? 心が俺のものなら、関係ない」

 自信ありげにそう言い切られてしまい、私はこくこくと頷くことしかできない。

 なんだ、そっかあ……。

 確かに、自分の心が誰に向いているのかが大事なんだから、こんなに深刻に悩むこともなかった。

 紫音のはっきりした考えに、少しずつ胸の中が晴れ渡っていく。

「そっか、それもそうだね、紫音」

 笑顔でそう返したけれど、紫音は言葉とは裏腹に、まだ何か複雑そうな顔をしている。

「めちゃくちゃ腹立つけど、あいつが触れられなかったところ全部に、俺は触れられると思うと、優越感あるな」

「わ、ちょっと、紫音……っ」

「唇と、あとどこ触られたの?」

「ハ、ハグされただけだよ……」

「は? 何それ、普通にありえない」

 まずい、本気でキレてる、この人……。

 ど、どうにか紫音の怒りを鎮めないと……!

 そう思うけれど、上手い方法がすぐに見つからない。

「お仕置きしていいよね、さすがにこれは」

「め、目が怖いよ、紫音……!」

「俺にしか見せれない千帆を見せてくれないと、気がおさまらない」

 あわあわしているうちに、紫苑の手がいつのまにかボタンを全部外していた。

 か、神業だ……! いつのまに!

 あらわになった下着に、そっと大きな手が重なる。

「……ドキドキしてる」

「そ、そりゃそうだよ……! す、好きな人にそんなところ触られるの、恥ずかしいもん」

「……なんで? どう恥ずかしいの?」

 すっと下着と肌の間に、紫音の細い指が入ってきたのが分かった。

 心臓がドクンドクンと強く鼓動して、もう破裂しそうだ。

 だけど今日の紫音はいつもよりいじわるで、何を言ってもやめてくれそうにない。

「千帆の全部が見たい」

「も、もう十分見せてるよ」

「全然足りない。もっと色んなところ見て、触って、千帆の表情楽しみたい」

「へ、変態だよそれ……っあ」

「うん、俺普通に変態だから。俺みたいなαに捕まって、かわいそうだね千帆は」

 再びキスをされて、私はもう何も言えないようにされてしまった。

 紫音の大きな手が、優しく肌を撫でる。

 結局その日私は何も抵抗できないまま、紫音の気がすむまで触り倒されてしまったのだった。