大人っぽい姿に余計にドキドキしながら、私はお手伝いさんが淹れてくれた紅茶を一口飲んだ。

 紫音はそんな私を見つめながら、「何かあったでしょ」と言ってくる。

 ぎくっとしながらも、私は首を横に振った。

「な、ないない。何もないよ……!」

「俺に嘘つくんだ?」

「……うっ」

「心配だから、聞いてるんだけど? 明らかに様子変だし、千帆から甘えてくるなんて滅多にないし」

 打ち明けても、きっと紫音を戸惑わせるだけだし、心配かけたくないな……。

 そう思い、沈黙を決め込んでいると、そっと紫音の腕が肩に回ってきた。

 半月型の黒い瞳とバチッと目があって、それだけで心臓が跳ねる。

「まあいいや、一週間ぶりに会えたし。千帆不足で、頭どうにかなりそうだった」

「う、うん! 私も、振り返ってみたら会えなくて寂しかったな……一週間でも」

「俺のが絶対寂しかったね。いつも千帆に会いたいのは俺ばっかりだから」

「そ、そんなことないよ……!」

「ねぇ、キスしていい?」

 答える前に、チュッと音を立ててキスされた。

 いつもよりずっと深いキスに、どうしたらいいのか分からなくなる。

 紫音がどんな顔をしてるのか気になって、そっと目を開けてみると、すぐに後悔した。

 会えなかった時間を埋めるようにキスをしてくる紫音は、クラクラするほど色っぽかったから。

 余計に頭がぼーっとしてきて、何も考えられなくなる。

「し、紫音っ……」

「あー、やばい。どうにか抵抗して、千帆」

「て、抵抗って……またそんなこと言って……!」

 この状況で紫音に抗うことなんてできないと、紫音は分かっていて言っている。

 いじわるな笑顔にまた心臓が鼓動を速めて、羞恥心でおかしくなってしまいそうだ。

 紫音は私の制服のネクタイに指をかけると、あっという間にそれを解いた。

 ブラウスのボタンを、わざと下からひとつひとつ外していく紫音。

 なんでこういう時、紫音はすごくいじわるになるんだろう。

「や、だめだよ、紫音……!」

「止めて欲しいなら、なんで今日様子がおかしいのか、ちゃんと口で説明して?」

「わ、分かった、するから……!」

 恥ずかしさに耐えることができず、私はするっと降参した。

 紫音は少しつまらなさそうにしていたけれど、私は辿々しくも事情を説明する。

「さ、三条君のファンに倉庫に閉じ込められて……」

「は? 誰、何年何組なんて名前?」

「待って! 全然無傷だから! 三条君が助けに来てくれたから……」

 一瞬で殺気立った紫音をどうにか宥めるためにその後の状況をすぐに補足したけれど、三条君の名前を聞いた瞬間もっと機嫌が悪くなった。

 まずい、言い方間違えたかな……。

 でも、もうここまで話したら嘘はつけないし……。

「でね、三条君に告白されて……」

「……いや、待って、無理。殺す」

「まっ、待って最後まで聞いて紫音! 私の様子がおかしかったのは、そこじゃなくて……」

 立ち上がり今にも三条君の元へ殴りかかりにいきそうな紫音をなんとかその場に留めさせ、私は必死に難しい感情を言葉にしようとした。

 三条君の指で唇に触れられた時、無条件で体が熱を帯びた。

 全身に電流が流れたみたいになって、心臓がドクンと強く波打った。

 三条君に対して全く恋愛感情なんてないのにーー、体と心を切り離せなかった。

 本能に抗えない自分が、すごくすごく怖くなった。

「私、三条君に触れられた時、紫音に触れられた時と同じように体が熱くなったの……。フェロモン同士が作用してるだけだって分かってるけど、自分が不誠実に感じて、すごくショックで……」

「……千帆」

「それでもう訳わかんなくなって、ただ紫音に会いたくて、安心したくて……ここに来た」

「うん」

 そこまで説明すると、紫音は暗い顔をして黙り込んでしまった。

 怖くなって、自然とじんわり目尻に涙が溜まっていく。

 重たい空気にに耐えられなくなり、私は子供みたいな言葉を発してしまった。

「紫音、私のこと嫌いになんないで……っ」

 その瞬間、私はソファーに強引に押し倒された。