クラクラする。頭の中が沸騰したみたいで、正常な判断ができなくなっている。呼吸も乱れる。
“好き”という感情が、“本能”と入り混ざって、どうしようもなくなる。
その丸い瞳も、雪みたいに白い肌も、長いまつ毛も、赤い唇も、小さな爪も、全部全部俺のものにしたい。
ーーこれが、αの支配欲なのか?
俺は今、千帆を支配したいと思っているのか?
分からない。感情の全部が混ざり合って、いっそ千帆と一緒にどろどろに溶け合ってしまいたいとさえ思っている。
鎖骨から胸元に唇を移動すると、千帆の体が震えた。
「ねぇ、どこまで許してくれる? 千帆」
「え……? どこまでって、どういう……」
「ここまで?」
「ど、どどこ触ってるの……! 全然ダメだよ!」
「うん。じゃあ、頑張って抵抗して」
そう言って、俺は再び同じところを優しく触った。
我ながら性格が悪いと思う。
困った千帆を見ることが、こんなにも楽しいだなんて。
もし今、お互いに抑制剤を飲んでいなかったらどうなっていたんだろう。
きっと俺は、夢中で千帆を求めてしまっただろう。
「もう、紫音! いい加減に……!」
半泣きで千帆がそう言いかけたところで、チャイム音が鳴った。
俺と千帆はピシッとその場に石のように固まって、しばらく動けなくなる。
シーンとしていると、半狂乱の母の声が微かに聞こえてきた。
「千帆ちゃーん! 花屋のクソジジイに何か言われたんだってー⁉︎ この部屋にいるのー⁉︎」
激しくノックをしながら問いかけてくる母に、俺は深いため息をつく。
でも、心のどこかでホッとしていた。このまま止まれなかったら、本当に千帆をどうにかしてしまっていたかもしれないから。
俺と千帆はサッと身だしなみを整えて、母がノックしているドアを開けた。
すると、目を潤ませた母が俺をドン!と押し退けて千帆の元へ行き、ギュッとハグをした。
「ごめんね千帆ちゃん、おばちゃんがこんなパーティーに呼んだばかりに嫌な思いさせて……!」
「紫音ママ、全然気にしないでください……!」
「あの花屋のジジイとの契約はさっきお父さんが切ってくれたから安心してね! ほんっと古い考えのαって嫌ね!」
さすがだ……。もうそこまで話を進めていたのか。