ーー名誉も富もいらない。
伊集院家の御曹司なんて肩書き、いつだって捨てられる。
俺の人生には、千帆がいれば、それでいい。
大袈裟でもなんでもない。千帆は俺の光そのものなんだ。
「いた……!」
ようやく見つけた千帆は、会場内で予想通り男共に囲まれていた。
嫉妬に燃えた俺は、千帆に群がる男性三人のうちひとりの肩をグッと掴んで、鋭い視線を向ける。
「彼女に何か用でも?」
「えっ、あっ、あなたは伊集院のご子息様……⁉︎」
俺の顔を見て一気に顔面蒼白となった男性たちは、俺と千帆に視線を行ったり来たりさせて動揺している。
俺たちの関係性を聞こうとして迷っているのだろう。
千帆は「紫音……」と俺の名を呟いて、困惑しながらこっちを見ている。
「ち、違うんです! 彼女のイヤリングが取れてしまったみたいで、俺たちがつけてあげようかと言っただけでして……!」
焦って弁明し始める男性の言う通り、千帆の手にはダイヤのイヤリングがあった。
彼らの言うことは事実だったけれど、下心があったことは明らかだ。
「ほ、本当だよ紫音、ちょっと髪の毛触ったら片方だけ落ちちゃって、この人たちが拾ってくれたの。だから紫音は取引先との話に戻って大丈夫だから……!」
「貸して」
俺はダイヤのイヤリングを手に取ると、千帆の髪の毛をかき上げる。
流れるようにイヤリングでパチンと耳を挟んでから、そっと耳元で囁いた。
「……千帆が誰かに触られて冷静でいられるほど、俺余裕ないんだけど」
「え……」
「分かってるでしょ?」
首筋を指で撫でながらそう問いかけると、珍しく顔を赤らめる千帆。
俺はそんな彼女の顔を隠すように、さらに片手で抱き寄せた。
そして、茫然自失としている三人を思い切り睨みつけて牽制する。
「で、俺たちの関係、聞いておきますか?」
「い、いえ、とんでもございません……!」
そそくさと去っていく三人衆を見送ってから、俺は千帆の肩を抱いたまま会場から連れ出す。
千帆は慌てた様子で俺の顔を見ているけれど、無視をした。
もう千帆を、誰にも貶されたくないし、誰にも見せたくない。
会場を出る時にチラッと鈴山親子と父を見かけたけれど、父が笑いながら怒りを爆発させている様子が遠くからも見て取れた。
きっと今は、契約解消の話でも爽やかな笑顔でしているんだろう。
Ωの侮辱は、自分の愛する妻の侮辱にも繋がるのだから。
俺は黙って千帆をエレベーターまで移動させると、最上階の部屋まで連れて行った。



