本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~


「昨年ご紹介させて頂いたばかりですが、うちの娘がすっかりご子息の紫音君を気に入ってしまったようで……!」

「ちょっ、ちょっとお父さん!」

 鈴山社長の言葉に、彼の娘は顔を赤くしている。

 俺は「光栄です」と言って仮面の笑顔でサラッと流したけれど、鈴山社長は食い気味に迫ってくる。

「伊集院代表、どうですか? うちの娘はいつでも嫁に出せますが……」

「ハハハ、有難い話ですね」

「ちょっとパパ、困らせてるからやめてってば! 伊集院さんにも恋人がいるかもしれませんし……」

 娘さんからチラッと媚びるような視線を感じたので、俺はさっと目を逸らした。

 その手の話を、なぜまだ関係値の薄い彼らにしなければならないのか。

 千帆のことを紹介するまでもないと思った俺は、なんとかテキトーに話を切り上げて会話を終わらせようとした。

 しかし、酔っているのか鈴山社長は饒舌だ。

「うちの娘も優秀なαでね……! 番は他所で作って、家族全員αに……なんてエリート一家にもなれますよ」

「ハハ、まあ……そういうご家庭もたまにありますね」

 言葉を返しながら、父の笑顔もかなり引き攣っている。

 αを高確率で産むことができるのは、Ωだけ。

 そのため、家族全員αにするために、子供は他所の番と……なんて恐ろしい考えを持っている財閥も稀にある。もしかして、鈴山家は代々そういう家系なのかもしれない。

 うちの家系では一切そんなことはありえないが、まさか本当にそんなバカな考えを真に受けている大人がいるとは……。

 本当に、心の底から軽蔑する。

 俺の冷え切った表情に気づいた鈴山社長の娘は、それまで大人しく頷くだけだったのに、「パパ!」と青い顔をして引き止めようとした。

 しかし、鈴山社長は言葉を止めない。

「我々優秀なαだけで家族になる方が、お国のためにもなる。効率がいい。そう思いませんか」

「……鈴山社長」

 静かな怒りを沸騰させ、今にも殴りかかりそうな俺を押さえて、父がそっと社長の名を読んで止めに入った。

 一言一言全て、とんでもない侮辱だ。

 αの世界では、こんな勘違い人間の発言にげんなりすることは今までも多々あった。α以外の人間には価値がないと思っているαがいるということは、悲しいけれど事実だ。

 だけど今はもう、我慢できそうにない。

 父を押し退けて怒りを吐き出そうとすると、饒舌に話す鈴山社長のうしろに、ぽつんと立ち尽くしている千帆がいた。

「千帆……」

 もしかして、全部聞かれた……?

 いつからそこにいた?

 千帆に……一番聞かせたくない汚い話を、聞かれてしまったかもしれない。

 千帆はぽかんとした顔のまま、俺たちのことを見つめている。