乾いた笑みを浮かべながら聞いていると、千帆ちゃんは俺を見てこう言い放った。

「三条君も、それくらいたまにしていいんじゃない? 仕事でもないのに二十四時間アイドルは、疲れちゃうよ」

「んー、でも俺が急に冷たくなったら女の子たちびっくりしない?」

 冗談まじりにそう答えると、千帆ちゃんはふっと笑みを浮かべた。

「それくらいしないと、三条君が同じ人間だってこと、みんな忘れちゃうかもよ? 三条君も、一般生徒で、同い年の、ただの男の子なのに」

「えー、はは、何それ」

「全員の期待背負う義務なんてないんだからさ、笑いたくない時は笑わなくていいでしょ」

 そう言って、千帆ちゃんはあっけらかんと笑った。

 その素直な笑顔を見て、自分の目だけに焼き付けたいと思った。誰にもこの笑顔を渡したくないと感じた。

 唐突な感情の変化に戸惑いながらも、ドッドッと早鐘のように鳴っている心臓をなんとか落ち着けようとする。

 待て待て、落ち着け……。これはΩのフェロモンにやられているだけなのだから。

 でも、千帆ちゃんは、本当に、俺のことをαという色眼鏡なしで、個人として見てくれている。対等だと……、同じ人間だと思って見てくれている。

 誰かと目線が合うことが、こんなにも嬉しいことだなんて、知らなかった。

 だから思わず、俺は今まで気になっていた質問を千帆ちゃんにぶつけてしまった。

「千帆ちゃんは、俺のこと見てドキドキしたりしないの? 俺も紫音君と同じαだよ」

 そう言うと、千帆ちゃんはきょとんとした顔になって、「ドキドキ……?」と呟いて顔を顰める。

 それから、正しい返答を考えに考え抜いて、彼女は答えを口にした。

「三条君からは確かに、他の生徒とは違うオーラを感じるし、近寄ったら危険な空気感は肌で感じ取れるよ」

「あ、そうなんだ。それは感じてるんだ」

「うん、なんとなくだけど」

 こっちは正直もう耐えられないくらいクラクラしてるけど。

 やはり彼女が感じてるフェロモンは、俺の半分以下のような気がしてならない。

 単に鈍いのか、好きな相手が他にいるからなのか……。

 好きな相手、と言う単語が頭をよぎった瞬間、なぜか少しだけ胸がチクッとした。

 その痛みを隠すように、俺は少し意地悪な発言をしてしまった。

「千帆ちゃんは紫音君のことが好きなのかもしれないけど、それってただフェロモンが作用してるだけとは思わないの? 勘違いかもしれないじゃん」

 そう言い放つと、千帆ちゃんは暫く考える素振りをして固まった。

 言ってから後悔した。こんなこと言って千帆ちゃんを傷つけても、彼女は俺のことを見たりはしないのに。

 ……ん? 俺は紫音君に今、嫉妬してるのか? まさか……。

「たしかに、惹かれ合う理由はαとΩの特性もあるかもしれない! でも、それ含め紫音と私だから、いいかなって開き直ってる」

「え……」

「むしろ、本能レベルで惹かれ合ってるってことで!」

 パッと明るい笑顔を向けられて、俺は思わず言葉を失う。