お前らのミーハー心を満たすための見せ物じゃねぇんだよ。どうせαという建前と外見にしか興味がないくせに。

 空っぽな俺の気持ちなんて、一生誰にも分からないだろう。

 周りから見たら俺は、何でも手にしているカースト上位の人間なんだから。

『αなんてろくな人生送れるわけがねぇ! 全部持ってるのは何も持ってないのと同じだからな!』

 小一時間前に言い放たれた言葉が、再び頭の中を駆け巡る。

 その瞬間、ズキッとこめかみ付近に痛みが走った。さらに、女子のキャーキャーという声がその頭痛を煽っていく。

「うるせぇよ……」

 俺は頭を抱えながら、小さく低い声でつぶやいた。

 幼い頃から、色んな人から羨望の眼差しを浴びて生きてきた。

 俺の何も知らないくせに。顔しか見てないくせに。αのフェロモンにやられてるだけのくせに。

 あの声は、いったい何を求めているんだ、俺に。

 頭が割れそう。おかしくなる。俺のことを誰も知らない世界へ、飛んでいってしまいたいーー。

 頭を押さえたまま俯いていたその時、なぜか突然目の前に真っ赤な苺が乗ったクレープが現れた。

「三条君、一口あげる」

「は……?」

 訳の分からないまま顔を上げると、そこには少し息を切らした様子の千帆ちゃんがいた。

 彼女は俺の前にずいっとクレープを差し出して、真剣な顔をしている。

「何で? さっき帰ったはずじゃ……」

「甘いもの嫌い?」

「いや、別に好きだけど……」

 戸惑いながら答えると、千帆ちゃんはにこっと笑ってこう答えた。

「じゃあ、食べて。なんかやっぱり元気ない気がして、気になって戻ってきたの。甘いもの食べると、元気出るよ」

「え……」

「すごい苦しそうな笑顔だったよ」

 千帆ちゃんの言葉に、俺はまた冗談で返すつもりが、すぐに言葉が思い浮かばなかった。

 笑顔が胡散臭いことは自分でも自覚していたけれど、それでみんなが俺への期待感を保っていられるのなら、それでいいと思っていたから。

 答えられないまま、クレープも食べずに固まっている俺の隣に、千帆ちゃんがよいしょと座り込んだ。

「なんか、ずっと思ってたんだけど、三条君て目の奥が笑ってないし、軽口しか叩かないから、本性が読めないんだよね」

「あはは、めっちゃ言うじゃん、千帆ちゃん」

「疲れる? やっぱりαでいるのって、大変?」

「は……?」

 αでいいなと言われることは今まで何度もあったけれど、αが大変かと聞かれたのは初めてだった。

 驚きまた言葉を失っていると、千帆ちゃんはクレープを食べながら話し続けた。

「ずーっと人の注目浴びてるんだもんね。紫音も小さい頃、大変そうだったし。まあ、紫音の場合は不機嫌オーラ飛ばして、周囲に近寄るなアピールしてたけど」

 うん、紫音君ならめっちゃ想像がつく。