何の暇つぶしにもなれない雑魚なんて、視界にすらもういれたくない。
俺はしゃがんで男の髪を掴み上げると、目をしっかり合わせながら言い放った。
「少しは楽しませてくれると思ったのに、この程度かよ」
「や、やめてくれっ……」
「好きな女のために俺をぶっ殺しに来たんじゃねぇのかよ? なあ? 何お前が死にそうになってんの?」
αは、知能に長けているだけではなく、運動能力も恐ろしく長けている。
喧嘩は生まれてから負け知らず。何度か金銭目的で誘拐されかけたこともあったけど、大人相手だとしても何も怖いものはなかった。
この圧倒的な力を悪く利用するαも世間にはたくさんいて、よくニュースで取り上げられている。
でもそれでも、国はαを邪険にすることはできない。
国の未来を支える、大事な大事な“素材”だから。
「お前らαなんて、国に消費されて死んでいくだけのくせに……!」
俺のことを赤い目で睨みつけながら、その大柄の男は悔し涙を流していた。
消費、という言葉を聞いて思わず手が止まったが、俺は構わず話を最後まで聞いてみることにした。
「うん、それで?」
「αなんてろくな人生送れるわけがねぇ! 全部持ってるのは何も持ってないのと同じだからな!」
「へー、いいこと言うね。お説教ありがとう。お礼にもう一発お見舞いしてあげるよ」
ゴッという音が、倉庫内に響く。
風を切って男の顔面ギリギリ真横を通り過ぎた拳は、金槌を振り下ろしたほどの衝撃で地面を揺らす。
顔面蒼白となった男に、俺は笑顔で言ってのけた。
「何も成し遂げられない凡人は、黙ってその辺の凡人と一生恋愛ごっこしてろよ」
◯
何ひとつすっきりしない。イライラする。
殴られた頬の痛みを感じながら、俺は駅へ向かって歩いていた。
すぐ終われるように、情けでみぞおち一発で済ませてやったものの、あの男は容赦なく感情で殴ってきやがった。
口の中で止まらない血を洗い流すために、俺は駅の手前にある公園に立ち寄って口の中を濯いだ。
夕方ということもあり、まばらに親子が遊びに来ている公園には、まさに平凡な幸せが転がっていた。
蛇口を捻って水を止めると、ころころと足元にボールが転がってきた。
思わず手に取って辺りを見回すと、小さな男の子が俺のことをじっと見つめている。
「はい、ボール」
「あ、ありがとう」
口から少し血が出ていたせいか分からないが、男の子は少し怯えた目で俺を見ながら去っていく。
そういえば、小さい頃にこんな公園に来たことなど、一度もなかった。
公園に女の子がいると、皆自分に寄って来て、注目を浴びてしまうから。
母は幼い俺を家から全く出さずにほぼ監禁状態にして、学校も通信制にしようか迷っていたほどだ。
俺はしゃがんで男の髪を掴み上げると、目をしっかり合わせながら言い放った。
「少しは楽しませてくれると思ったのに、この程度かよ」
「や、やめてくれっ……」
「好きな女のために俺をぶっ殺しに来たんじゃねぇのかよ? なあ? 何お前が死にそうになってんの?」
αは、知能に長けているだけではなく、運動能力も恐ろしく長けている。
喧嘩は生まれてから負け知らず。何度か金銭目的で誘拐されかけたこともあったけど、大人相手だとしても何も怖いものはなかった。
この圧倒的な力を悪く利用するαも世間にはたくさんいて、よくニュースで取り上げられている。
でもそれでも、国はαを邪険にすることはできない。
国の未来を支える、大事な大事な“素材”だから。
「お前らαなんて、国に消費されて死んでいくだけのくせに……!」
俺のことを赤い目で睨みつけながら、その大柄の男は悔し涙を流していた。
消費、という言葉を聞いて思わず手が止まったが、俺は構わず話を最後まで聞いてみることにした。
「うん、それで?」
「αなんてろくな人生送れるわけがねぇ! 全部持ってるのは何も持ってないのと同じだからな!」
「へー、いいこと言うね。お説教ありがとう。お礼にもう一発お見舞いしてあげるよ」
ゴッという音が、倉庫内に響く。
風を切って男の顔面ギリギリ真横を通り過ぎた拳は、金槌を振り下ろしたほどの衝撃で地面を揺らす。
顔面蒼白となった男に、俺は笑顔で言ってのけた。
「何も成し遂げられない凡人は、黙ってその辺の凡人と一生恋愛ごっこしてろよ」
◯
何ひとつすっきりしない。イライラする。
殴られた頬の痛みを感じながら、俺は駅へ向かって歩いていた。
すぐ終われるように、情けでみぞおち一発で済ませてやったものの、あの男は容赦なく感情で殴ってきやがった。
口の中で止まらない血を洗い流すために、俺は駅の手前にある公園に立ち寄って口の中を濯いだ。
夕方ということもあり、まばらに親子が遊びに来ている公園には、まさに平凡な幸せが転がっていた。
蛇口を捻って水を止めると、ころころと足元にボールが転がってきた。
思わず手に取って辺りを見回すと、小さな男の子が俺のことをじっと見つめている。
「はい、ボール」
「あ、ありがとう」
口から少し血が出ていたせいか分からないが、男の子は少し怯えた目で俺を見ながら去っていく。
そういえば、小さい頃にこんな公園に来たことなど、一度もなかった。
公園に女の子がいると、皆自分に寄って来て、注目を浴びてしまうから。
母は幼い俺を家から全く出さずにほぼ監禁状態にして、学校も通信制にしようか迷っていたほどだ。



