本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~

 何の暇つぶしにもなれない雑魚なんて、視界にすらもういれたくない。

 俺はしゃがんで男の髪を掴み上げると、目をしっかり合わせながら言い放った。

「少しは楽しませてくれると思ったのに、この程度かよ」

「や、やめてくれっ……」

「好きな女のために俺をぶっ殺しに来たんじゃねぇのかよ? なあ? 何お前が死にそうになってんの?」

 αは、知能に長けているだけではなく、運動能力も恐ろしく長けている。

 喧嘩は生まれてから負け知らず。何度か金銭目的で誘拐されかけたこともあったけど、大人相手だとしても何も怖いものはなかった。

 この圧倒的な力を悪く利用するαも世間にはたくさんいて、よくニュースで取り上げられている。

 でもそれでも、国はαを邪険にすることはできない。

 国の未来を支える、大事な大事な“素材”だから。

「お前らαなんて、国に消費されて死んでいくだけのくせに……!」

 俺のことを赤い目で睨みつけながら、その大柄の男は悔し涙を流していた。

 消費、という言葉を聞いて思わず手が止まったが、俺は構わず話を最後まで聞いてみることにした。

「うん、それで?」

「αなんてろくな人生送れるわけがねぇ! 全部持ってるのは何も持ってないのと同じだからな!」

「へー、いいこと言うね。お説教ありがとう。お礼にもう一発お見舞いしてあげるよ」

 ゴッという音が、倉庫内に響く。

 風を切って男の顔面ギリギリ真横を通り過ぎた拳は、金槌を振り下ろしたほどの衝撃で地面を揺らす。

 顔面蒼白となった男に、俺は笑顔で言ってのけた。

「何も成し遂げられない凡人は、黙ってその辺の凡人と一生恋愛ごっこしてろよ」





 何ひとつすっきりしない。イライラする。

 殴られた頬の痛みを感じながら、俺は駅へ向かって歩いていた。

 すぐ終われるように、情けでみぞおち一発で済ませてやったものの、あの男は容赦なく感情で殴ってきやがった。

 口の中で止まらない血を洗い流すために、俺は駅の手前にある公園に立ち寄って口の中を濯いだ。

 夕方ということもあり、まばらに親子が遊びに来ている公園には、まさに平凡な幸せが転がっていた。

 蛇口を捻って水を止めると、ころころと足元にボールが転がってきた。

 思わず手に取って辺りを見回すと、小さな男の子が俺のことをじっと見つめている。

「はい、ボール」

「あ、ありがとう」

 口から少し血が出ていたせいか分からないが、男の子は少し怯えた目で俺を見ながら去っていく。

 そういえば、小さい頃にこんな公園に来たことなど、一度もなかった。

 公園に女の子がいると、皆自分に寄って来て、注目を浴びてしまうから。
 
 母は幼い俺を家から全く出さずにほぼ監禁状態にして、学校も通信制にしようか迷っていたほどだ。