「本当だ。なんで……? そういう薬があるの?」

「千帆が好きだから。湯町に罪悪感抱く千帆も、鈍感なふりして繊細な千帆も、じつは泣き虫な千帆も、全部好きだから」

「なっ、なっ……!」

 真顔で淡々とそんなことを告白する紫音に、頭が爆発しそうになる。

 どうしてこんなに歯が浮くようなセリフも、紫音はなんでもないようにサラッと言いのけてしまうんだろう……。

 プシューッと湯気が出そうなほど赤面している私に、紫音は言葉を続ける。

「千帆。αだからΩだからって、俺たちは一緒にいるのを諦めなきゃいけないの? 好きでいるの我慢しなきゃいけないの? 違うでしょ?」

「紫音……」

「もし千帆が、今日みたいにΩの体質が原因で悩むことがあったら、その度に一緒に考えよう。……千帆の人生に、俺のこと、もっと巻き込んでよ」

 少し寂しげに最後の一言をつぶやく紫音。

 紫音の言葉が、気持ちが、嬉しくて嬉しくて、やっぱりまた涙が溢れた。

 湯町君を豹変させてしまった自分のことを、大嫌いになりかけていたから。

 でも、紫音がいれば、この先も大丈夫だと思える。不思議だ。なんの根拠もないのに、たしかに歩いていける気がする。

 私は涙をごしごしと服の袖で拭って、それから、笑顔で紫音にお礼を伝えた。

「ありがとう、紫音。大好きだよ」

「え……」

 私は紫音の肩に両手を置くと、チュッと唇にキスを落とした。

 紫音は驚き固まったまま、目を見開いている。

 間抜けな紫音の顔なんて滅多に見れないので、私はプッと吹き出してしまった。

「紫音、目がまん丸……!」

「千帆。発情期間中にキスしてくるとか、舐めてんの?」

「えっ、えっ……?」

「人がどれだけ我慢してると思って……」

 紫音の静かなる怒りを感じて、私は思わずひっと声を小さく漏らす。

 慌てて距離を取ろうとしたけれど、紫音に強引に抱き寄せられ、ジャージのファスナーをゆっくり下ろされた。

「ななっ、待って! この下、キャミソールなんですけどっ……」

「うん。だから?」

「お、怒ってるね……!? 相当! あっ、待っ……」

 チュッと音を立てて、鎖骨付近にキスをされる。熱を持った唇が肌に触れて、それだけで頭がクラクラした。