「何がなんで? 助けに来るに決まってんじゃん」

 少し怒ったような真剣な顔でそう即答する紫音に、思わず涙腺が緩む。

 月明かりに照らされた紫音はすごく綺麗で、生乾きの髪からぽたりと雫が落ちている。

 どこも痛くないと答えると、紫音はホッとしたように私の頭を撫でて、そのままグッと胸の中に収めた。

「よかった……。心臓止まりかけた」

「ご、ごめん、ありがとう……」

「で? 何、なんで泣いてんの。千帆は」

 親指で乱暴に涙を拭われ、視線を合わせながら「ん?」と問いかけてくる紫音。

 心臓が、信じられないくらいドキドキいってる。

 私のことを本気で心配してくれている瞳が、どんどん鼓動を速くさせる。

 紫音は今、私のそばにいることが、フェロモンの作用でとても辛いはずなのに、ちっとも顔に出していない。

 そんな紫音の優しさに、また涙がじわっと溢れ出てくる。

「紫音、私といるの、今辛いでしょっ……?」

「辛くないよ」

「私がΩなせいで、これからもきっと紫音にたくさん迷惑かける……。私、ちゃんと分かってなかったんだ……っ、ごめんねっ……」

「迷惑って……例えばどんな? 言ってみ?」

「ど、どんなって……」

 思わぬ質問に面食らったけれど、紫音は真剣な顔で私の言葉を待っている。

 なので、なんとか小さい声でぼそっと答えた。

「紫音のことを誘惑したり、他の人を誘惑したり……」

「あとは?」

「あ、あとは、さっきみたいに何度も助けてもらうことになるかもしれないし……」

「ふぅん……」

「ふ、ふぅんて……、私は本気で……!」

 涙声で怒ろうとすると、紫音が私の頬を急に両手で挟んで、じっと私の顔を見つめてきた。

 それから、当たり前のように、かつぶっきらぼうにこう言い放った。

「ひとつも“迷惑”なんかじゃないんだけど」

「え……?」

「千帆を守るのは俺の役目だし、千帆に誘惑されてももう付き合ってるから問題ない」

「し、紫音……」

「それとも、千帆は俺に触られるのは嫌?」

 ブンブンと首を横に振ると、紫音はふっと優しく笑って、私の額にキスをする。

 チュッというリップ音がして、自分の顔に熱が集まっていくのを感じる。

「正直今、めちゃくちゃ千帆のこと触り倒したいけど、我慢できてる。なんでか分かる?」