待って、もしかして、紫音には約束を取り付けてない? 私、騙された? しかもなんかキャラ変わってない?
すぐに紫音に連絡を取るためにスマホを開いたけれど、圏外と表示されているのを見て絶望した。
でも私さっき、紫音に先に行ってるねって言ったのに……。あ、もしかしていつも通り下駄箱で待ってると勘違いしたのかな?
私の言葉が足りなかったせいで、今紫音は私のことを学校中探し回ってるかもしれない。
三条君はそんな私をフェンスまで追い詰めて、いつのまにか距離を縮めていた。
フェンスに背中がピタッとくっついて、カシャンと金網が軋む音がする。
「αの前では無防備にひとりになっちゃいけないって、教わらなかった?」
三条君がつうっと私の首筋を親指で撫でて、流し目で見つめている。
私はそんな彼をきっと睨みながら、この状況をどう切り抜けるべきかひたすら考えを巡らせる。
まずいよ! こんな簡単すぎる罠に引っ掛かったらどれほど紫音に怒られるか! 想像するだけで震えてくる……。
「ねぇ、知ってる? Ωとαのキスって、普通の人とのキスとは比べ物にならないほど気持ちいいんだよね。試してみたくない?」
「そ、そんなこと、会ったばかりの人とするのはおかしいよ……!」
「なんで? αとΩの間に感情なんていらないんだよ。こんなのただの本能に従った行動なんだからさ」
「感情がいらないって……」
なんでそんな、冷め切った目で私のことを見つめているんだろう。
彼にとって、私はただの餌でしかないのかもしれない。
ぐっと顎を掴まれて強制的に目が合うように上向かされると、三条君はバカにしたようにこう吐き出した。



