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放課後。ホームルームが終わると、私は言われた通り屋上に向かうことにした。
紫音と一緒に向かおうとしたけれど、何やら先生に話しかけられていたので「先に行って待ってるね」とだけ伝えて、教室を出る。紫音も「おう」とだけ返事をして、軽く手を振った。
三条君と一緒にいると目立つから、何事もないかのように別々で屋上に集まることにした。
たった一日で三条君はこの学校のスターになり、紫音よりもとっつき安いという理由で、わんさか女子が群がっている。
私なそんな彼を尻目に、先に屋上へ到着した。
「夕方でもあったかいなー」
夏が近づいている。
私は夕日が沈みかけた空を見上げながら、今日までのことを思い出していた。
Ωと分かってから本当に色んなことがあったけれど、紫音がいたから乗り越えてこれたのかもしれない。
紫音に叩き込まれたお陰でΩの特性はだいたい頭の中に入ったし、それなりに危機感も持てている気がする。
紫音がまだ来ない様子なのでメッセージを送ろうとすると、圏外と表示が出た。そうだった、屋上ではスマホが使えないんだった。
「千帆ちゃん、お待たせ」
なんて思っていると、足音もなくいつのまにか三条君が後ろに立っていた。
柔和な笑みを一度も崩さない彼は、まさにアイドルみたいな人。
紫音とは違うカテゴリーで人気が出るのにも頷ける。
それにしても、αがΩに相談したいことなんて、いったいなんだろう?
「三条君、話したいことって何かな……?」
「んー? 忘れちゃったあ」
「……へ?」
「まさか本当にのこのこ現れるとは、平和ボケしてるなあ」