どうやったらそう毎日毎日食べ物のことばかり考えていられるんだ。

 呆れた目でそう言い放ち、俺は窓際の自分の席に向かおうとした。

 俺が離れた瞬間、男女二人がスッと千帆のもとに駆け寄り、何かを興奮気味に話しかけている。

 確か彼らの名前は、タケゾーとかおりんとかだったような……。

 記憶力には自信があるが、興味のないクラスメイトの名前は知らない世界の単語のように頭に入ってこない。

「千帆! 今日このクラスにαの転校生くるんだってよ!?」

「僕のイケメン図鑑がまた増えちゃうよ、どうしよう!」

 声がでかいので三人の会話が聞こえてくる。やはり話題は転校生のことで持ち切りのようだ。

 千帆は二人の話を聞いてもなお、「やっぱりチャーハンかな?」と真剣な顔で返している。無事に会話が成立していない。

 どう考えたって、αの転校生に危機感をもたなくてはならないのはこのクラスで千帆ひとりだけだ。

 なのに当の本人は食欲で頭の中から満たされている。

 すっかり呆れ返っていると、ガラッと教室のドアが空いて、まだ若い男性教諭が転校生を連れてきた。

 その瞬間、キャー!という黄色い歓声が教室内に響き渡る。

「えー、皆なぜかもう既に知ってるようだが、今日からこのクラスメイトになる三条星(さんじょう ほし)君だ」

「こんにちは、親の仕事の都合で越してきました、三条です」

 アッシュ系の金髪に、白い肌に明るい茶色の瞳。カラコンでも入れているんだろうか。

 男子にしては長めの髪の毛を、無造作にワックスでまとめている。

 へらへらと笑っているその姿はいかにも軽率な空気感で、間違いなく千帆のそばに置きたくない人間だと感じた。

「ちょっと待ってあんなの王子様じゃん……。なんかキラキラしてる」

「紫音君と星君がいるクラスに入れたなんて、三億当てるよりも難しいんじゃ……」