■αの転校生 side紫音

 千帆の呑気そうな顔を隣で見てるだけで、それだけでよかったのに。
 
 俺はいつしか、千帆の全部が欲しいと思うようになってしまった。

 αゆえの傲慢さなのか、自らの欲求なのかは分からない。
 
 だけど、千帆のためならなんだってできる。

 千帆のことが好きだと自覚したその瞬間、本当に心の底からそう思ったんだ。

 そしてそれは間違いなんかじゃなかったと、彼女がΩになったと知った今でも、確信している。

 何もかも手に入ってしまうαの世界戦で、千帆だけが唯一俺の心を揺さぶる。
 
 千帆だけが、俺の弱点だ。


「ねぇねぇ、αの美形転校生がくるって話、本当!?」

「紫音様だけでも目に毒なほどイケメン過多なのに、この学校どうなっちゃうの!?」

「今日からこのクラスに来るんだよね? 待って心臓準備できてない」

 登校して早々、朝からひとつの話題で校内は騒然としている。

 噂にはチラッと聞いていたが、どうやらαの転校生がやって来るのは本当のようだ。

 今まではどんな転校生がこようがどうだってよかったが、千帆がΩになってしまった今、話が全然違う。

 もし、その転校生が千帆のことを嗅ぎつけて気に入ってしまったとしたら――、なんて、最悪の考えが頭をよぎる。

 噂に疎い千帆はもちろん、今も隣でぼけっと食べ物のことを考えているわけだけど。

 教室に入るまで千帆は真剣な顔をして黙り込んでいて、席に着いた瞬間こう問いかけてきた。


「ねぇ、やっぱり今日の学食はハンバーグじゃなくてカツカレーにしようかな?」

「どうでもいい」

 ほら、やっぱり周囲の噂のひとつも耳に入っていやしない。