「ちょっと紫音、この空気はいったい」

「紫音様! 番の契約を結ぶ人が決まったというのは本当ですか⁉︎」

 私が紫音に問いかける前に、猪の如く突進してきた女生徒が、紫音に涙目で訴えかけた。

 なぜその情報が公に……⁉︎

 驚き紫音を見ると、「番を見つけたら学校に一応報告が必要なんだ。国に報告が義務付けられてるから」と、あっさりと答えられた。

 そうだったのか、知らなかった……!

 ということは、相手が私ということも知られているのか……?

 いや、それだけは回避しないと平穏な学園生活が終わる……!

「お相手はどこの御令嬢なんですか? 紫音様!」

 ご、御令嬢縛りやめてー! 私はただのしがない花屋の娘だから! 何もかも並の人間だから! お金持ち学校のこの高校に入れたのも、校長と父親が昔から仲が良かったからというだけだし…!

 絶対私だと答えないでね、紫音……!

 目で念力を送ると、紫音は私の顔をチラッと見てから、教室内に響く声の大きさで「面倒だから伝えておく」と宣言する。

 それから、私の腰にぐいっと手を回して、体を強引に抱き寄せた。

「俺の番候補は花山千帆だ」

「は、花山さんが……⁉︎」
  
 紫音の発言に、教室内は一気にざわついた。

 な、な、なんで言っちゃうのー⁉︎

 私は心の中で号泣しながら、顔を青ざめさせる。

 しかし、クラス内の生徒は、私以上に顔を青ざめさせて、床に倒れ込んでいる人もいる。

 改めて、紫音の人気さを思い知らされたが、そこまでショックを受けられると私もさすがに傷つく。

「し、紫音様、なんでこんなど庶民の幼なじみと……。まだどこかの大企業の娘さんだったら諦められたのに……。まさか、花山さんはΩとか……⁉︎」

 ハッとしたように、嘆いていた女生徒が私の顔を見つめてくる。

 大きな目に見つめられて思わずビクッと肩を震わせると、紫音が優しく私の肩を撫で、周囲に冷たい声で言い放つ。

「千帆はΩだ。だから、千帆に変な気を起こして問題を起こす生徒がいたら……社会的に潰す」

 紫音の言葉に、教室内はさっき以上にざわつきだした。いずれバレることだったけれど、このタイミングで知らせたこともあり、動揺の波紋は大きく広がっていく。

 タケゾーもかおりんも、口をあんぐりと開けて驚いているのが見えた。