私はガバッと紫音から離れて、すぐさま問いかける。

「えっ、なんでそんな嘘ついたの!?」
「お前があまりに鈍感過ぎて危機感もないから、番のことちゃんと意識させようと思って」
「なっ、何それ! ひどい!」
「お前が保健体育でバース性に関する勉強をサボってなければ騙されなかっただけの話だ」

 冷静にそう言われて、私はガーンという効果音が出てしまいそうなほど、ショックを受けた。

 自分からキスするの、ものすごく勇気がいったのに!

 ていうか、じゃあキスされた意味は全然なかったってこと!?

 色々紫音に踊らされていたことに気づき、だんだん悔しくなってきた私はポカッと紫音の頭を叩いた。

 しかし紫音は、そんな私の手首を掴んで、チュッと軽いキスをし返してくる。

「ま、またっ……!」
「俺とのキス、嫌じゃないんだろ?」

 ニヤッと余裕の笑みを浮かべて私を見つめている紫音に、ドキドキしてしまっている自分がいる。

 何枚も上手な紫音に転がされることは癪だけれど、体は正直だ。一気に心拍数が上がる。

 ひとりで焦っていることが恥ずかしくて、私は強い口調で紫音にあることを提案する。

「じ、じゃあっ、番になる本当の方法、教えてよ! いますぐ番になろう!」
「いますぐって……」
「えっ、なんか変?」
「お前それほとんど逆プロポーズしてるようなもんだぞ」

 覚悟を決めたこの勢いで番になってしまおうと思ったのだけれど、なぜか紫音は少し呆れた顔をしている。

 私そんなに変なこと言っちゃったのかな……?

 紫音のことをじーっと見つめていると、髪の毛をくしゃっと乱暴に撫でられた。

「契約関係結ぶことがどのくらいの重さなのかちゃんとわかってんのか?」
「え、契約するの嫌になったの?」
「そうじゃなくて。千帆があまりに能天気すぎて不安になってきた。あと、そもそも番になるのは、結婚するよりも重いことだから、俺が十八才になるまで番にはなれないよ」
「あっ、そうなんだ」
「そうなんだって、そんな軽々しく……。俺と家族になるってこと、ちゃんとわかってる?」
「もちろん。じゃあ、来年まで待ってるね」

 笑顔でそう返すと、紫音は珍しく顔をカーッと赤く染めて、固まった。

 突然のことに驚き、ただただ困惑した顔でそんな紫音のことを見つめていると、彼は私の唇を指でなぞった。

「今の笑顔はずるい」
「ずるいって何が?」
「俺と番になること、もう撤回できないから」