お腹に冷たい手が少し触れていることに気づいて、私はがばっと起き上がり、チェック柄のパジャマを慌てて押さえた。

「お、起きるから! びっくりしたっ」
「チッ」
「今舌打ちした?」

 気のせいだよね……? 私のお腹なんか見たってなんの得にもならないわけだし……。

 私はふわっと大きなあくびをひとつしてから、目の前にいるブレザー姿の幼なじみに挨拶をした。

「紫音は今日も起きるの早いね」
「いや、家出る二十分前に起きる女子高生、お前くらいだから」
「なんか紫音、顔が整いすぎてて朝から胃もたれするなあ……」

 なんだか色気のある半月型の瞳に、どこも荒れていない綺麗な肌、スッと通った鼻筋に、絶妙にバラけた長めの前髪。おまけに一八〇センチ超えの高身長。

 紫音が街を歩けば周りの女子高生が倒れそうになり、男子高校生もモーセの十戒のごとく道を開け、お店に入れば店員さんに過剰なサービスをされまくる。

 紫音の従姉妹が賞金欲しさに勝手にオーディションに写真を送ったら、即事務所から猛烈な電話が来て、紫音が従姉妹に爆ギレしたという話も最近聞いた。

 そこらのアイドルにも負けないくらいのイケメンと幼なじみ関係になって、かれこれ十年以上。やたらと過保護な紫音は、私が何もできないと思ってこうして朝から世話を焼いてくる。

「あ、そういえば紫音、隣のクラスのアケミちゃんって子が、連絡先教えてだって」
「知らない。誰そいつ」
「そうだ! もういっそ、全教室の黒板に書いて回ったらどうかなあ。私も毎回毎回聞かれて困ってるんだよ」
「毎回毎回断ってるこっちの身にもなれっての。アケミにもそう言っといて」
「なんでそんなに紫音は頑ななの? 友達作らずに群れないことがかっこいいと思ってる思春期なの?」
「黙れそう?」

 低い声でそう言い放たれて、怒った紫音は怖いので私はすぐに黙った。
 
 それから、冗談だって、と言って肩を叩こうとすると、紫音は深い深いため息を吐く。
 
 そ、そこまで怒ること……!? 男子の思春期いじりはそこまでご法度だったなんて知らなかったよ!

「ごめんって! 今日はせっかくお互い誕生日なんだからハッピーに行こう?」