本能レベルで愛してる~イケメン幼なじみは私だけに理性がきかない~

 紫音に触られるのと、この人たちに触られるのでは、全然違う。
 
 私、紫音にキスされたり、抱きしめられたりするの、本当は嫌じゃなかった。

 幼なじみという関係性を壊されるみたいで、それが怖いだけだったんだ。

 紫音の本当の気持ちを聞かずに、わからないわからないって、逃げてばっかりで。

 こんなんじゃ、幼なじみ失格だよ――。

 紫音、大嫌いなんて言ってごめんね。

 床に押し倒されたそのとき、ガシャン!というものすごい音が教室中に響いた。

「な、なんだ……!?」

 とんでもない力で教室のドアが開き、ヤンキーも驚いた様子で入り口を見ている。いつのまにかドアは机で封鎖されていたというのに、その机ごと吹っ飛ばされていた。

 ただならぬオーラで教室に入ってきたその人物は、封鎖していた机を持ったままスタスタとこちらに歩み寄ってきて、それを私の上に覆い被さっていた不良に思い切りぶつけるふりをして、ピタッと止めた。

「すぐに離れろ。次は本気でぶつける」
「ひ、ひいっ……! αがなんでここに……!」

 目の前の人が怯えながら瞬時に私からどくと、助けに来てくれた人の顔がようやく見える。
 そこには、鬼みたいな顔をした、本気でキレている紫音がいた。

 いつのまにか涙目になっていた私とバチッと目が合うと、紫音はますます恐ろしい顔つきになり、逃げようとしたヤンキーの胸倉を掴む。
 
「気が変わった。やっぱり殺す」

 紫音は一言そういうと、ヤンキーに馬乗りになってボコボコに殴り始めた。

 鈍い音が教室内に響くと、他のヤンキー二人は紫音のその狂気な姿を見て一目散に逃げ出す。

 止められるのは私だけという状況になってしまったので、私は慌てて紫音の腕に抱きついた。

「やめて紫音! 私は大丈夫だから!」

 動きが止まった瞬間、ヤンキーはゴキブリみたいにかさかさと這いずり教室を出て、逃げていってしまった。

 な、なんていう逃げ足のはやさだ……!

 さっきまであんなにオラオラしたオーラを出していたのに、紫音を目の前にした瞬間チワワみたいに小さくなっていた。

 ヤンキーの威厳もαを前にしたら歯が立たないのだろうか。

 茫然と紫音を見つめていると、紫音がそっと私の頬に優しく触れてきた。

「どこ触られた?」
「えっ……、全然、手首とか髪しか触られてないよ」