父親はずり落ちた眼鏡をしっかりかけ直して、冷静に提案してくる。
「まあ、婚約の話はただの口約束だから。すまない、少しふざけすぎた。どうするかは千帆が決めなさい。父さんは千帆が楽しく生きれるならなんだっていいから」
「う、うん……」
「母さん、来週病院に千帆と一緒に行ってやってくれないか。もらっておくべき薬があるかもしれない」
な、なんだ。半分はジョークだったのか。
家族全員で悪ノリをしていただけならよかったけれど、半分本気で浮かれていたように見えたのは気のせいかな……?
お母さんも振り乱した髪を整えて、お父さんの言葉に真剣に相槌を打っている。弟だけはあからさまにガッカリした顔で「セレブの仲間入りだと思ったのに」と悪態をついている。
まさか、紫音が影でそんなことを言っていただなんて……。
不思議に思い、思わず本音が口から溢れ出てしまう。
「なんで紫音は、私の番なんかになろうとしてくれるのかな……?」
そう言うと、家族全員、呆れた目で私のことをじーっと見つめてきた。
母親は「どこまで鈍感なの」と、呆れを通り越して不安そうな顔をしている。
私は再び頭の上に疑問符をたくさん並べながら、家族の反応に戸惑っていた。
「鈍感ゴリラ」
拓馬がぼそっと隣でそうつぶやいたので、ひとまずグーでパンチしておいた。悪口を言われたことだけはわかる。
ひとまず家族へのカミングアウトはこれにて無事終了……したのか?
◯
次の朝。紫音はやっぱり朝起こしにきてくれなかった。
私はまた寝癖が爆発したまま階段を駆け下り、高速で支度をして、走って駅へと向かう。
口うるさく紫音が起こしにきてくれる”日常”がなくなってしまったことに、なぜかちくりと胸が痛む。
まあ、学校に行けばすぐに会えるんだけど……。どこにいるかも嫌と言うほどすぐわかるし……。
「紫音様~! 今日もちゃんと息してる、すごい、天才、ありがたい……」
「美し過ぎて無理……。どの角度から見ても国宝級……」
「あの女ちょっと近くない? ロケットランチャーでふっ飛ばしたいわ」
あ、今紫音に近づいたら私、ロケットランチャーで吹っ飛ばされるんだ……。怖……。
紫音が校門付近にいることは秒でわかったけれど、どう考えても今彼に近寄ることは得策ではない。
「まあ、婚約の話はただの口約束だから。すまない、少しふざけすぎた。どうするかは千帆が決めなさい。父さんは千帆が楽しく生きれるならなんだっていいから」
「う、うん……」
「母さん、来週病院に千帆と一緒に行ってやってくれないか。もらっておくべき薬があるかもしれない」
な、なんだ。半分はジョークだったのか。
家族全員で悪ノリをしていただけならよかったけれど、半分本気で浮かれていたように見えたのは気のせいかな……?
お母さんも振り乱した髪を整えて、お父さんの言葉に真剣に相槌を打っている。弟だけはあからさまにガッカリした顔で「セレブの仲間入りだと思ったのに」と悪態をついている。
まさか、紫音が影でそんなことを言っていただなんて……。
不思議に思い、思わず本音が口から溢れ出てしまう。
「なんで紫音は、私の番なんかになろうとしてくれるのかな……?」
そう言うと、家族全員、呆れた目で私のことをじーっと見つめてきた。
母親は「どこまで鈍感なの」と、呆れを通り越して不安そうな顔をしている。
私は再び頭の上に疑問符をたくさん並べながら、家族の反応に戸惑っていた。
「鈍感ゴリラ」
拓馬がぼそっと隣でそうつぶやいたので、ひとまずグーでパンチしておいた。悪口を言われたことだけはわかる。
ひとまず家族へのカミングアウトはこれにて無事終了……したのか?
◯
次の朝。紫音はやっぱり朝起こしにきてくれなかった。
私はまた寝癖が爆発したまま階段を駆け下り、高速で支度をして、走って駅へと向かう。
口うるさく紫音が起こしにきてくれる”日常”がなくなってしまったことに、なぜかちくりと胸が痛む。
まあ、学校に行けばすぐに会えるんだけど……。どこにいるかも嫌と言うほどすぐわかるし……。
「紫音様~! 今日もちゃんと息してる、すごい、天才、ありがたい……」
「美し過ぎて無理……。どの角度から見ても国宝級……」
「あの女ちょっと近くない? ロケットランチャーでふっ飛ばしたいわ」
あ、今紫音に近づいたら私、ロケットランチャーで吹っ飛ばされるんだ……。怖……。
紫音が校門付近にいることは秒でわかったけれど、どう考えても今彼に近寄ることは得策ではない。