「唐揚げ食べながら聞くから母さんたちに話してみなさい」
「娘の悩み、めっちゃ片手間に聞くじゃん……」
「で? 何に悩んでるの?」

 母親にそう迫られて、私はごくりと唾を飲み込む。家族にどんな反応をされるか全く想像がつかないが、私は意を決して口を開いた。
 
「私……、Ωになっちゃったみたいなんだけど……」
「え!?」

 また三人の声が一緒に重なる。
 お父さんは漫画みたいに眼鏡をずり落ちさせて、まん丸の瞳でこっちを見ている。
 弟も母親も取ろうとした唐揚げをお皿の上に落として、口をあんぐりと開けている。

 や、やっぱりそんなに驚かれるようなこと……?

「それは確かなことなのか……?」
「うん、多分……。症状がいくつも該当して……」

 父親の問いかけにこくんと頷くと、空気が再びしーんと静まり返る。

 え、そんなに? そんなに大きなこと?

 固まった空気の中、口火を切ったのは弟の拓馬だった。

「じゃあもう、本当に紫音さんと結婚じゃん……」

 え? なに、なんて?
 拓真の言葉を理解できないでいると、母と父も騒ぎ出す。

「ま、まさか本当に紫音君と約束したことが起こるなんて……。あなた、赤飯今から炊こうかしら?」
「あ、ああそうだな……。あの伊集院(いじゅういん)家の息子さんと、婚約関係を結ぶことになるわけだしな……」

 何を言ってるのかさっぱりわからない。
 私が紫音と結婚? なんで?
 ひとりで頭の上に疑問符を並べまくっていると、母親が「実はね」とようやく説明してくれた。

「もし千帆がΩに変化したら、千帆を俺にくださいって、昔から紫音君に言われてたのよ」
「は……!?」
「最初は子供のノリだと思って流してたんだけど、伊集院の奥様とも話してたら、“千帆ちゃんみたいな子が番になってくれたらこっちも安心だわ”って言われてね。“じゃあそんときは本当に婚約しましょうか”なんて両家でふわっと話してて……」
「私のいない場で勝手に!?」
「勝手じゃないわよ。紫音君のこと好き?って意思確認したら、好きって言ってたじゃない」
「それ何歳の時の話!?」

 あまりに勝手な言い分に、私は全力でツッコミを入れる。

 すると、家族は全員「まあ確かに」と、さっきのノリとは変わって、少し落ち着きを取り戻してくれた。