◼️番になる? side千帆
 
 Ωの勉強、もっとちゃんとしておけばよかった。

 でも、私がΩになったからって、いったい何が変わると言うんだ?

 紫音は色んなことを心配しているみたいだったけど、そんなに気をつけなくちゃダメ? 今までみたいに一緒にいちゃダメ?

 私は私なのに……。モヤっとした気持ちを抱えながら帰宅し、私は自分の部屋のベッドに横になっていた。

 ふと、紫音に言われた言葉が蘇ってくる。

『ダメだ。千帆の番には、俺がなる』

 あの時の紫音は、とても真剣な顔をしていた。ほとんど怒っているような顔。

 好きな人、いるんじゃないの?
 ただの幼なじみのよしみで言ってないの?
 どうして無理矢理キスをして強引にでも番になろうとしたの?
 
「無理矢理キス……」

 何度もキスをされたことを思い出し、ぼっと火がついたように顔が熱くなっていく。

 どうして紫音は、言葉で説明する前に行動で示してくるんだ!

 そんなの、少し横暴すぎるよ!

「紫音のバカ!」

 ドアに向かって枕を投げると、ちょうど部屋に入ってきた誰かの顔にそれが当たってしまった。

「ねーちゃん、喧嘩売ってんの?」

 そこには、オレンジ色のパーカーを着た、生意気な顔をした中一の弟・拓馬(たくま)がいた。

 彼は枕で当たった顔を押さえながら、こっちを睨みつけている。

「あれっ、拓馬、ナイスタイミング過ぎ……」
「はー、ガサツ過ぎまじゴリラ。餌用意できたから下降りてこいよ」
「わ、わかったゴリ……」

 姉を毎度ゴリラ扱いしてくる弟は、長めの前髪の間から呆れた視線を放ち、先に下へと降りて行く。

 家族は私がΩだって知ったら、どう思うんだろう。誰も私の誕生日にその可能性を心配してこなかったけど……。

 きっとちゃんと説明しておくべきだろう。そう決心し、私も一階へと向かう。

「千帆、何度読んでも返事しないんだから先に食べちゃってるわよ」
「ごめんお母さん! ちょっと考え事してて気づけなかったのかも」
「千帆が考え事ぉ~?」

 私の言葉に、父も母も弟も口を揃えて聞き返してきた。

 私に悩みがあるのがそんなにおかしいとでも……!?

 どうせ大したことない悩みだろうと言うように、母はきれいなロングヘアをかきあげ、父に料理を取り分けている。