それとも相手が、紫音だから?

 わからない。全然わからなくて、怖いよ。なのに、紫音ともっと触れたいと思っている自分がいる。

 そんなことを考えている間に、再び何度も唇を奪われる。

「あと三回。隙あり過ぎじゃない?」
「なっ、だって紫音が、力強くてっ……んんっ」
「あと二回」

 そう言うと、紫音はあと一回を残して、私から離れた。

 とんでもない紫音のフェロモンがこの教室中に溢れかえっている。もしかしたら、今ドアの前を通り過ぎた人は倒れているのではないだろうかと思うほど。

 ハアハアと息を乱しながら紫音の顔を見つめていると、スッと唇を親指で撫でられる。

「最後の一回は、千帆からして」
「わ、私からって……」
「待ってるから」

 そう言い残すと、紫音は座り込んでいる私を立ち上がらせてくれて、そのまま先に教室から出て行ってしまった。

 私は、いまだ落ち着かない騒がしい心臓を押さえながら、幼なじみという関係性をハンマーで殴るみたいに壊していった紫音の後ろ姿を、ただ茫然と見つめていた。