かおりんには溺愛している彼氏がいるし、タケゾーは自分のことしか愛さないし……。あれっ、ていうかそもそも二人はβだから番にはなれないのか!

 うーんうーんとうなっていると、紫音がスッとしゃがみ込んで、私の髪の毛を片手でかきあげ、顔を覗き込んできた。

 少しつり目がちな、でも恐ろしく形の整った綺麗な瞳と視線が重なり、また甘い痺れが体に走る。

 ドキンドキンと胸が高鳴るのを感じながら、彼の言葉を待った。

「俺と“番”になる? 千帆」
「え……?」
「本当はこんな形で、言いたくなかったけど」

 大胆な提案をしておきながら、少し切なそうな顔をする紫音。

 たしかに、私の身の回りには、αの人間は紫音しかいない。

 きっと、幼なじみのよしみで言っていてくれているんだろう。だってそんなに切なそうな顔、してるんだもん。

 言いたくなかったって、言われてるし。

 もしかしたら、紫音には番にしたいと思うような、好きな子がいたのかな。

 そう思った瞬間、ズキッと胸が痛くなった。電流が走るような痛みとは違い、もっとズシンと心の内に入ってくるような、そんな痛み。

 紫音に好きな人がいるのに、死ぬまで契約して、だなんて、言えないよ。

「しない。紫音とは番にならない」
「は……?」
「が、頑張って見つける! 私の番になってくれそうな人。紫音もそんな、幼なじみのよしみだからって、同情してくれなくていいよ」

 そう言うと、紫音はなぜか獣みたいな瞳に変わって、私の手首を掴んだ。

 急に顔が接近して、紫音のサラサラとした前髪がおでこに触れる。

 フェロモンの作用なのかなんなのか分からないけれど、心臓が爆発したみたいに高鳴っている。

「ダメだ。千帆の番には、俺がなる」
「な、なんで……」
「言ってなかったけど、十回キスしたら強制的に番になれるらしいよ」
「えっ、えっ、待って紫音……んっ」

 問いかける前に、無理矢理唇を塞がれた。
 また甘い痺れが脳まで到達して、体に力が入らなくなっていく。
 
 慌てて紫音の体をドンドン叩いて体を離したけれど、色気のある視線で私のことを射抜いてくる。
 そして、恐ろしく艶っぽい声でこう囁いたのだ。

「あと八回」

 ゾクリと全身が粟立ち、思考が停止していく。

 これが、αとΩの関係性なの? 全部フェロモンのせいなの?