私は、未だにあの夜から抜け出せずにいる。

夜にだけ私のことを求める。
あなたはもう、私のことを以前のようには愛していないのだろう。
夜だけ優しくなるのも、お互いが心も身体もどこか虚しくて、それを埋めたいから。
そこに愛はない。知っていても、この関係に区切りをつけられないのは私がそれでもいいと思ってしまっているからだろうか。
彼を諦めきれずにいるからだろうか。

「鍵、返してほしい」
口に出した言葉は、掠れていた。

この関係を終わりにしなければいけない。

「私のことを好きじゃないなら、もう会いたくない。」

いつかこうなる日が来るとわかっていた。だから素直に受け入れなければならない。
頭の中ではしっかりと理解していたつもりだった。

ただそれでも現実は私に後悔を突きつけた。

「…そうか。」
そう言うと彼はローテーブルの上に鍵を置き、そのまま家を出て行った。
あまりにも彼らしい態度で。

最初から、何も期待していないはずだった。
それなのに、寂しくて、悔しくて。
無理に笑ってみたが、
込み上げてくる哀しさに、私は嗚咽を誤魔化せなかった。