神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

「病人や怪我人のふりをして馬車を足止めして襲ってくる盗賊がいるからな」
 そうなんだ。ぎゅっと胸の奥が縮まる。
 日本と違う。命にかかわるような危険があちらこちらにある世界だ。
 自分で何とかなる、大丈夫なんて言っていられる世界じゃないと改めて感じる。
 助けてもらうことは甘えでもなんでもない。助けてもらえるなら素直に助けてもらう。その代わり、私も誰かを助ける。
 そうして、お互いに助け合って生きていく……。ここはそれが当たり前の世界なんだ。
 自己責任なんて言葉で人を突き放していい世界じゃない。
「ああ、大丈夫なようだ、じーさん、馬車を進めても大丈夫だぞ」
 様子を見に行った男がこちらに合図を出した。
 馬車が再びガタゴトと動き出す。
 その場で待っていればいいのに、冒険者風の男は、こちらに向かって走り寄り、馬車によじ登った。
「あっち側は見ないほうがいい」
 青い顔で、男は告げる。あっち側?
 人が倒れていた方向だ。
 もう、亡くなっていて、ひどい状態なのだろうか……。
 うん、それは見たくないな。忠告ありがとうございます。
「おい、なんだ、どういうことだ?」
「これは、何が起きてるんだ?」
 どうやら、忠告を守って目をそらしていたのは私くらいなもので、逆に商人のご夫婦や冒険者の男は興味がましたようでしっかり見たようだ。

「まだ、息がある者もいるように見えるぞ、襲われて時間が経ってないんじゃないのか?」
 息が、ある?
 その言葉に思わず背けていた顔を、見ない方がいいと言われた方に向けた。
「あっ!」
 血まみれの人、いったい何に襲われたのか……獣の類だろうか。ひどい有様の人が、道に倒れていた人の背後にも森の中に何人も見える。
 森の中に逃げようとしていたのか、木に登ろうとしていたのか。それとも森の中で襲われて道まで逃げてくる途中だったのか。
「ポ、ポーション……」
 息があるならポーションを飲ませれば助かる。
「ポーションを、誰か持っていませんか?」
 私の声に、全員が口をつぐんだ。
「あんなひどい怪我を癒せるようなポーションは持っていない」
「いや、たとえ持っていたとしても……1本で金貨何枚もするようなものを……」
 ぐっと奥歯をかみしめる。
「何も、金貨何枚もするようなものをとは言いません、初級ポーションでもっ、止血して町に運んで治療すれば」