神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

「狼煙種。火にくべると、独特の煙を出すんだ。それで、位置がわかる。2つ目の町くらいの距離の範囲ならば、狼煙は見えるからな」
 そうか。狼煙……。
 魔法でなんか連絡するとかそういうんじゃないんだ。
 ずいぶん古典的な連絡方法。
 夜なら、月の精のようにぴかーっと光ればすぐに位置がわかりそうだけれど、そういうぴかーって光る魔法が使える人ってあんまりいないのかな?
「ありがとう」
 笑ってお礼を言うと、私の足元にパズ君がしがみつく。そして……。
「ありがとう。受け取ってくれて」
 ディールの大きな体が私を包み込んだ。
 うわぁ。
 びっくりして固まる。
 だ、抱きしめられてしまった。いや、ハグ、ハグだよ、ハグ。お別れの時に海外の映画でよく見るあれ。

「おいおい、朝っぱらからおあついねぇ~」
 からかうような男性の声に、ディールが慌てて体を離した。
「う、あ、すまん、いや。その……つい、体が……いや、いつもこんなんじゃないんだ、俺、あれ、リョウナがその……あ、いやあの」
 しどろもどろになるディールの様子を見て、それから足元にしがみついているパズを抱き上げる。
「大丈夫だよ。またすぐ会えるよ。ね?」
 パズくんの目に浮かんだ涙を指でぬぐった。
 ぷぅーと小さく草笛が鳴る。うんって返事だよね。
「はい、ディールさんも!またね!」
 パズ君をディールの胸に押し付けて、手を振って今度こそ宿を出た。
 すぐ、会えるよ。
 自分に言い聞かせるように心の中でもう一度繰り返す。
 ううう。やだもう。涙出てきた。
 なんでよ。婚約破棄された時でさえ一滴も涙が出なかったっていうのに。
 ん?出なかったっけ?あれ?それどころじゃなかったし。出なかった気はするけど。思い出しても全然分かれが寂しくない。
 いやだって、婚約者だったことすら恥ずかしいとか、散々言われたし。まぁその前に実家の農家をディスられた時点で、何かが終わったんだよね。
 乗合馬車の値段と出発の時間を確認して、ポーションの瓶と携帯食料と水を購入。瓶は、10本で銅貨1枚と激安だった。
 ……こんな安いものを横流しした罪で犯罪者か……とちょっとだけ切なくなったけれど、何も奪えなくても銀行強盗は銀行強盗だし。罪の重さは値段じゃないんだよ。
 リュックの中身、そろそろ限界だなぁ。手動ミキサーセットも入っているからかさばってる。