神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 はいはい。もちろんテンプレ通りに、助けますよ。もしかしたら貴族のお嬢様かもしれないし、かわいいお姉さんがいるかもしれないし。
 ポケットから多機能ナイフを取り出す。1万ほどの31種類もの機能を持ったナイフだ。
 10センチほどの長さのものからナイフを取り出す。……どれだ?これか?ナイフでもいろいろあるよな。よし、これでいいか。
 犬ッころをにらみつける。とびかかってきたしゅんかんに、これで目を突いてひるんだすきに首を掻っ切る。
 それとも、あえて口の中に手を突っ込み内側から喉をつぶしてやるか?
「お前の相手は俺だ、こい!」
 一歩踏み出し、ナイフを犬に向けて突き出す。
 思った通り、犬っころは大きな牙を生やした口をぐわっと開けて俺にとびかかってきた。
 目だ。目を狙おう。
 突き出したナイフは犬の顔をそれた。
「避けられただと……?」
 その瞬間、二の腕に鈍い痛みを感じる。
「ぐあっ」
 犬が、牙で俺の二の腕を切り裂いたのだ。
 パーカーは切り裂かれ吹き出た血で汚れていく。
「痛い、痛い、なんだ、この痛みは……っ」
 再び犬が顔をこちらに向け、威嚇するように低い唸り声をあげる。
 なんでだよ、どうしてだよっ。
 俺は迷わず駆けだした。
「あっ」
 少女の小さな声が聞こえる。
 逃げないと、殺される。あの犬っころに。
 きっとあれは、犬に見えたけれどフェンリルのような高位モンスターに違いない。
 まだチート能力も開眼してないのに勝てるわけがない。
 二の腕を手で押さえて、全力でその場を外れる。
「ぐるぐるるーっ」
 犬は、数メートルだけ俺の後を追いかけようと動いたものの、狙いを少女に戻したためかそれ以上追ってこないようだ。
 た、助かった?

☆視点戻る☆

「おい、大丈夫か?とにかく飲み込め」
 ぐっと何かを口元に当てられる。
 口の中に広がるドロッとした液体。
「げふっ、ごふごふっ」
 急に口の中に流し込まれたものだから変なところに入ってむせた。
 く、苦しい。何、なんなのっ。
 激しくせき込んでいるというのに、なぜか嬉しそうな声が聞こえる。
「ああよかった。大丈夫だったか」
 いや、げほげほ、ごほごほ、むせて、くるし……。大丈夫じゃない天…。
 え?
 あれ?
 視界に下半身が映る。右足のズボンには穴が開き、どす黒いシミが広がっている。