神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 人形のようにきれいな顔をした子供だ。粗末なズボンとシャツを身に着けているけれど、髪の毛はきれいに短く切りそろえられている。顔にひどい汚れもない。服の粗末さとはアンバランスだ。いや、もしかするとこの世界では粗末ではなく普通なのかな。
 皺だらけで、体に合わないサイズの飾り気のない一応シャツの形、ズボンの形を保っているこの服が……。
 子供の顔から涙が落ちているのが見える。
 でも、それはぼんやりとしか見えなくて、あれ?私も泣いてる?いや、違う、意識がちょっと遠く……。
 子供は泣いているのに声を上げない。もしかして……声が出せな……い?
 どうしよう、だったら助けを呼んであげないと、この子はずっと木の上から降りることもできな……。
 ああでもだめ、意識が遠のく、力が出ない……。
 助けて……誰か。
 この子を、どうか、助けて……。
「大丈夫かっ!」
 男の人の声が耳に届く。
 ああ、よかった。これで……この子は助かる……。
 そこで、意識は途切れた。

★浩史視点★
「あー、なかなか街は見えてこないな。もう1時間以上歩いてるよなぁ」
 って、あれ?もしかして?
 狼のような犬のような生き物が見える。
 木を背にして、女性が立っている。その前に犬。
「テンプレ来たぁ!これは女性を助けて、ありがとうございますと一緒に旅するアレだ!とくれば、かわいい子だろう」
 女性の顔が見えるところまで近づくと、犬がこ俺に気が付いて顔を向けた。
「うわっ、さすが異世界っ。像みたいな牙のある犬か!だが所詮は犬だろう?」
 ドラゴンやフェンリルならまだしも、犬ッころなど勇者の俺の相手ではない。
 チート能力がまだ何か分からない。けれど、死ぬようなことはないだろう。
「うわ、美少女」
 牙犬におびえていたのは、光が当たるとほんのり水色に髪の毛が輝く金髪の美少女だった。
 10歳くらいだろうか。
「んー、さすがにちょっと地球での倫理観が邪魔だなぁ。行くら勇者様ってすり寄られても子供に手を出すようなクズじゃないからな俺」
 10年……20歳になるまで手は出せないよなぁ。いくら若い子が好きでも、若すぎるのも駄目だ。
 少女が俺に気が付いたようで、涙目になりながら、小さな声で助けてと口にした。