神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 ガリリと不快な音を立てて、枝は獣にかみちぎられてしまった。
 私の手に残ったのは、長さ50センチほどの木の棒。
 だめだ。威嚇にもならない……。
 視線を逸らせば今にも懐に飛び込まれてかみつかれそうだ。子供は逃げただろうか?
 神経を研ぎ澄ます。かさりと音がして、目の前の獣が音のした方へ視線を向けた。
 まずいっ!
 子供が動いた音だ。私は迷わず子供に向かって駆けだした。
 獣は、私を相手にするか子供を狙うか迷いがあったのだろう。私が駆けだしたのを見送ってから行動を開始した。
 だから、私の手の方が速かった。獣は私が走るよりもずっと速く駆けられるけれど、動き出したのが早い私が勝った。
 私の両腕は、子供を抱き上げていた。
「木の上なら、獣は登れないはずだから、その枝につかまって!」
 子供を両腕で抱き上げ、持ち上げる。子供が手を伸ばせば届く位置に、人が乗っても折れそうもない枝があった。
 白い肌。白っぽい金の髪。おびえた顔で私を見ている。
 言葉が通じない?
「木の上に……っ」
 熱っい……いや、痛いのか、視線を痛みの走った足元に向けると、右足のふくらはぎをかまれていた。
 木から引きはがそうと、グイっと引っ張られるたびに、激しい痛みが全身の神経に走る。
「木につかまってっ!」
 この子を助けなくちゃ。
 視線を木の枝に向けると、子供が私の視線の先を追うように頭上の木の枝に向ける。
「そう、そこにつかまって」
 言葉が通じているのか、それとも単に状況から何をすべきか読み取ったのか。
 子供は悲鳴一つ上げずに、おびえた顔のまま手を枝に伸ばしてつかまる。
 子供の腕の力だけで登れるはずもない。しっかりつかまったことを確認し、お尻を押し上げるようにして、枝に上るのを手伝う。
 くっ。痛い、痛いのか熱いのか、びりびりと全身の神経に響く。
 肉どころか骨も砕かれてそう。激しく大きな立派な牙がふくらはぎにしっかりと食い込んでいる。
「いい、落っこちないように抱き着くようにしっかりいて。そこならあれも登ってこられないだろうか……ら」
 痛い、痛い。
 もし助かっても、もう右足はだめかもしれない。