神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 助けてと言っても誰にも助けてもらえない人間の気持ちがお前に分かるもんか……。
 血を吐くような色の言葉だった。
「くっそ、はずれねぇ、どうなってんだ、ちょっとナイフをよこせ」
 ジーパンのボタンに業を煮やした男が手を押さえていた男にナイフを要求した。一瞬腕の拘束が外れた隙に、手を伸ばして近くにあるものをつかんで男に投げつける。
 足踏み式で使っていた木の大きな器だ。
 さして攻撃力なんてなくて、男を余計に苛立たせただけだ。
「俺はなぁ、別に生きてる女じゃなくたっていいんだよ」
 ナイフを受け取った男が、私の顔を殴った。
 っつ。血の味が口の中に広がる。
「大人しくするか、俺に殺されるか、どっちがいい」
 男がけたけたと笑う。
 頭がおかしい。いや、この世界はこれが普通なの?
「おいおい、殺すと冷たくなる前に急がなくちゃならねぇだろ」
「どうせ人が戻ってくるまでに急ぐ必要があるから一緒じゃね。もう抵抗されるの面倒だし、やっちゃえよ兄貴」
 人を殺すことくらい、何でもない、そんな世界。
 いや、いや、いやだ。
 助けて。私は日本に帰るんだ。死にたくない。
 これだけうるさくしていても誰も来ない。
 叫んでも助けが来ないんだろう。いや、叫べば男の持っているナイフで殺される。
 頭後ぐるぐると、ダーナの言葉が。
 誰にも助けてもらえない人間の気持ちがお前に分かるもんか……。
 ほろりと涙が落ちる。
 ダーナ……。
 努力もせず助けを待つだけで人を不幸にしてやろうとする最低の人間だと……。
 ああ、確かに私は見下していた。
 ダーナ。あなたは何度も、助けてと誰かに、いいや……神にかもしれない。
 何度も、何度も助けてと叫んだのかもしれない。だけれど……誰にも助けてもらえなかった……そんな経験をしたの。
 今よりずっと若い、まだ子供のようなころから……。
 親にも友達にも……。国にも警察にも……本当に助けてもらえない、そんな経験……。
 私は甘ちゃんだ。何が自分の力でだ。違う、違う。助けてもらえるなら助けてもらえばいい。
 困ったときには助けてもらえると、そういう考えが根底にあったからこそ……自分で何とかするなんて……。助けを待つなんて甘えてるなんて……。
 自分で努力もしないのかと……。
 なぜ、私は意固地になっていたのか。