神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 なぜそうしなかったのかと。
 浩史に嫌われたくなかったからだ。
 浩史が浮気をしているとうすうす知ったけれど、それを問いたださなかったのはなぜ?
 嫌われたくなかった……からだ。
「ありがとう、ディールさん。でもね、私に叱られるの好きだって言ったでしょう?」
 もし、ディールに助けてもらうのが当たり前になってしまえば、助けてもらうために……。
 ディールに嫌われないようにと……また同じことを繰り返してしまいそうだ。
 自分を殺す。
 自分を殺して相手に合わせる。
 もう、自分を殺して生きていくのは嫌だ。

「ディール、あなたが強くて力のある人でも……たとえそれが誰かを助けようという思いからだったとしても、力を振りかざして無理にことを進めては駄目」
 ディールがびくりとして私の手を放した。
「私は、大丈夫。店長は嘘はついていないし、無理強いもされてない」
 ……ノルマが達成できなければ借金というのは聞いてなかっただけで、嘘を言われたわけではない。私が細かい条件を尋ねなかったのだから、私のミスだ。
 ポーションの回収も、瓶の口までとあらかじめ指示されていた。達成できていなかったのなら私のミス。
 それから、今も、ディールが私を望んでいると言った時も2,3日待ってくれと言っていたし、ハナにだって意思が固まるまで待つような感じだった。無理強いはされていない。
「大丈夫だって?だが、噂では……」
 ディールがちらりと店長を見る。
 店長が身を固くしている。よほどディールのことが怖いんだろうか。
 体は大きくて強そうだけれど、悪い人じゃないよ?
「私がこの世界……この街に来て生きていられたのは店長のおかげだわ。この3日、安全に寝るところと食べる物が得られた。そのお金も払わずにここを立ち去れば、私は恩を仇で返す人間になってしまう」
 店長がすかさず言葉をつづける。
「そ、そうです、私は慈善事業をしているわけではありません。それに犯罪者でもありません。まっとうに店を経営しているだけです」
 チッとマチルダが小さく舌打ちをする。
 そうだよね。嘘はついてない、無理強いはしていないとはいえ、無理なノルマを課して借金まみれにして逃げられないようにするのは「まっとう」と言い難い。
 でも、お金がなかった私に宿とパンを提供してくれたのは事実だ。