神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 いったい何を見ているんだ?
 もしかして、まだあの犬の仲間がいて警戒しているのか?
 女性の視線の先を追う。
「げぇ……」
 食いちぎられた死体。
 胃液が上がってくる。気持ち悪いもの見た。冗談じゃない。
 なんてものを見てるんだよ。
 うわぁ、この子、あの時の子か。かわいかったのに……。
「なぜ、逃げた」
 女性が俺の顔を睨み付ける。
 は?
「俺には倒せないから逃げたに決まってるじゃないかっ!」
 地面に座り込んだままの俺の前にしゃがみ込み、俺の頭を抑え込むようにつかんだ。
 何て乱暴なっ。
「子供をおとりにして逃げたのか?お前は……」
「だ、だから、助けようとしたけど、俺ではどうしようもなかったんだよっ、ほら、見てくれよ、助けようとしたときに負った怪我」
 血まみれの腕を女性に見せる。
「助けようとした?その程度の怪我を負っただけで逃げたのにか?」
 むかっ。
「その程度とは何だよっ!すげー痛いんだぞ?」
 バシッと、女性のこぶしが再び飛んできた。今度は左頬を殴られる。
 地面に打ち付けられた。
「な、何をするんだっ!傷害罪で訴えるぞ!俺を誰だと思っている!」
「本気で助けようとしたなら、助けてくれと、子供が襲われているんだと、なぜ私に伝えなかった。自分の力で助けられなくとも、助けを呼ぶことで助けられたかもしれないのに……お前は、自分が逃げただけだ。子供がそのあとどうなろうと知ったことじゃなかった、そうだろ」
 髪の毛をひっつかまれる。
 痛てぇ。なんだよ、どうして、俺がこんな目に会うんだよ。
「誰に何を訴えるか知らないが、訴えたきゃ好きに訴えろ」
 女性の整った美しい顔が俺の目の前に近づけられる。
 くそっ。どうせ美人だからってちやほやされてきたんだろう。残念だけどな、日本にゃもっとかわいい子は他におたくさんいたんだからな。
 いい気になるなよ。勇者の俺のハーレムに、お前のような乱暴者を入れてやるものか!
「不愉快だ、さっさと私の前から姿を消せ!」
 つかまれていた髪の毛を離される。
「ああ、言われなくたって、行くさっ」
 立ち上がって、簡単に服に付いた泥を払うと街に向かって歩き出す。
 少し進んで振り返る。
「覚えてろよ。俺を殴ったんだ、訴えてやるからな、勇者をないがしろにした罪で牢獄は間違いないだろうよ。土下座して謝れば許してやってもいい」