神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 ディールさんが私の手を慌てて放した。パズ君を守ろうと必死だったのだろう。強い力で手首をつかまれていたため、離された手首が赤くなっていた。
「いえ、大丈夫です」
「その、パズは頭を触られると、ちょっとおかしくなる……んだ。いや、今は大丈夫だったけれど……あー、」
 ぷぅー。ぷぅー。草笛の音が響いた。
 当人であるパズ君は全く気にした様子もなく、草笛に夢中だ。
 よかった。知らなかったとはいえパズ君に不快な思いをさせてはいないようだ。
「今後気を付けます。パズ君、すごい。その調子。ねぇ、パズ君、もし何かあって助けを呼ぶときは笛をならせるように。どんな葉っぱを使っても慌てていても鳴らせるようにいっぱい練習するんだよ?」
 今度は頭をなでないように気を付けながらパズ君を褒める。

「それから、あまり力まなくても優しく吹いても音が出るから」
 見本を見せる。それにしても、小さなころは両親の茶畑についていって、葉っぱをちぎっては草笛にして拭いて遊んでいたなぁ。
 昔取った杵柄。今もなかなかの腕前さ。
 ぷぅぷぅ。ぷっぷぅー。ぷぷぷー。
 いろいろな吹き方を披露する。
「お腹空いたとか、ありがとうとか、どういう吹き方のときはどういう意味って考えるのもいいと思うわよ」
 パズ君が嬉しそうに目をキラキラしている。
「よかったな、パズ。上手にふけるようになれよ」
 ディールさんも嬉しそうだ。
 そして、どうやらディールさんは草笛をあきらめたらしい。うん、どんだけ練習しても音が出ない人っているんですよね。
「血の匂いに、モンスターがよってくると厄介だ。そろそろ行くか」
 ディールさんが立ち上がった。
 ひぃっ。モンスターが?
 私も慌てて立ち上がる。
 ディールさんがパズ君を肩車して、私を振り返る。
「君は、どっちに向かうの?」
「あ、まだ名前、えっと、涼奈です。リョウナ、えーっと行先は」
 北の方。太陽を背にして進むできたけど……。
 正直一人で歩いていくより、一緒に行けたら嬉しいなぁと。
「と、特に決まってなくて、えっと、ディールさんたちはどっちに?ご迷惑じゃなければ、街があるところまでは一緒に……」
「行先が決まってない?」
 ちょうどディールさんたちは北へ向かう予定だったみたいで、太陽を背にして歩き始めた。ディールさんの隣を並んで歩く。