神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

「いや、それは……別のモンスターが出たから、パズには離れていてもらって」
 モンスター、そうか、やっぱりモンスターがいるのか。
「で?」
「いや、だから、危ないから離れていてもらって」
「で?」
「あー、かばいながら戦う方が危険なんだよ。だから一番パズを安全に」
 ふぅー。ちょっと熱くなりすぎた。ディールだって悪気があったわけじゃない。目を離したのも事情があるみたいだし。
 いや、だけれど、言わせてもらう。
「それは分かったけれど、だからと言って、身の守り方をなぜ教えていないの?誘拐されないように隠れているとか、モンスターに襲われないように木に登るとか」
 私の言葉に、ディールさんはハッとなった。
「ああ、確かに……そういわれれば、俺が守ってやれば大丈夫だって、何も教えてなかった……」
 ディールさんの太い腕を見る。
 鍛えた腕なのだろう。あまり見たくなかったから目をそらしていたけれど、私の背後には首を切られた狼のような獣の死体が転がっている。首を一刀両断。躊躇なく倒しているんだと思う。
「それに、この子……パズ君は、しゃべれないのよね?」
 ディールが小さく頷く。
「だったら、助けてって声も上げられない……助けを呼ぶ代わりに、笛でも発煙筒でも防犯ベルでも、危険を知らせられるものを持たせてあげないの?」
「ん?笛?発煙筒?防犯ベル?」
 あ、しまった。
 いや、発煙筒や防犯ベルは失言として、笛もないの?
「笛……口にくわえて音を出す……道具のことだけど」
 ディールさんが首を傾げた。
 ないの?
 現代文明とかない世界でも笛はあるでしょう?……日本だって昔から。
 頭に浮かんだのは、尺八とほら貝。あれ?ホイッスルみたいな小さな笛はないの?
 ディールさんに会わせてパズ君も首をかしげている。
 ああ、かわいい。
「あ!」
 そうだ。子供のころよく遊んだ。
 立ち上がって、近くの木の葉を数枚むしり取る。
 ある程度張のある、手のひらの半分くらいの大きさの葉っぱ。
「はい、パズ君もどうぞ、これはディールさん」
 自分に1枚。それぞれ二人にも1枚ずつ葉っぱを渡す。
「こうして、くるくると丸めて、そう、パズ君上手。ディールさん、もう少し丁寧に、ほら、斜めになってます」
「いや、細かい作業はあまり得意じゃなくて」