神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 体が鉛のように重たい。痛み……はもう感じない。ううん、手は動いたけれど、反対の手は言うことを聞かないし、どうやら私の上半身を抱き上げて支えているディールの手の感触も感じない。
 あちこち、神経でも切れたのか、痛すぎて感覚がマヒしたのか。
「待ってろ、今、ポーションをっ」
 そうだ、ポーション。
「しまった。慌てて移動したせいで、荷物を何も持ってこなかった。すぐに町に連れて行ってやる。それまでもう少し、頼む、リョウナ……死なないでくれ」
 青ざめた顔のディール。
 私、そんなに死にそうに見える?ああ、死んだと思ったもの。
 でも……ディールが助けてくれたんだから、もう、大丈夫。
「ねぇディール、私の持ってた手動……えっと、壺みたいな鍋みたいな容器ある?あの中に、ポーションがあるから……」
 私の言葉で、ディールはすぐにきょろきょろとあたりに視線を向け、私を抱き上げて手動ミキサーのところへと移動した。
「今飲ませてやる」
 ディールが、一抱えある大きさの手動ミキサーの容器を傾けて私の口にポーションを流し込もうとして手を止める。
 そうだよ、そんなの傾けたら、多分中身がどぱーっと顔の上にこぼれてくる……。
 それか、勢いよく口の中にポーションが流し込まれて溺れそうになる……。
 指先でちょんっと救って飲ませてくれるだけできっと十分。

「あっと」
 ディールが、手動ミキサーと私の顔との間に視線を往復させた後、周りを見回し、ミキサーの大きな器を片手で持ち上げて自分の顔に持って行った。
 え?ディールが飲むの?
 と、思った次の瞬間、ディールの唇が、私の唇に押し当てられた。
 小さく開いた唇の隙間から、ポーションが流れ込んでくる。
 あっ。
 口移し……その手があったか……って、その手がね、あの、定番よね。
 薬を飲ますなら……うん、そう、ディールに他意はなくて、純粋に、私にポーションを飲ませようとして……。
 キ、キスとかじゃないんだから。
 なのに、なのに。
 もうっ!何なの!私の心臓。バクバク言いすぎ。
 こくんと流し込まれたポーションを飲み込むと、鉛のように重たかった体が軽くなる。
 動かなかった体の自由が戻る。
 そして、背中に回されたディールの手のぬくもりも、触れたディールの唇の柔らかさをはっきりと感じることができた。