神獣の国への召喚 ~無自覚聖女は神獣を虜にする~

 そうだ、私、狼のような獣にかまれて。
 ……痛くないのは、もう神経が通ってないから?
「半分吐き出しちまったな。もう1本飲んどけ」
 目の前に、栄養ドリンクような大きさの瓶が差し出される。
 綺麗な透明とは言い難い濁った色の瓶。中身は何だろう。濃い緑の液体だ。
 この世界に来てから飲み物もなかったから、素直に受け取る。コルクの栓を抜き、ごくりと口に含む。
 うっ。
 思わず顔をしかめる。
「あはは、苦いだろ。これは純度100%の薬葉ポーションだからな。甘みもつけてないし薄めてもいない。だけどその分効果は高いぞ」
 薬葉?ポーション?効果?
 良薬口に苦しっていうけど、薬なの?
 見た目も味も、例えるならば……青汁。まぁ、体によさそうはよさそうよね。
「どうだ?うん、まぁ何とか傷口はふさがったか」
 声の主が、私の右足のボロボロになったズボンをグイっとめくった。
 あ。
 触られた感触がある。神経が駄目になったわけじゃない?でも痛みは感じないのに。
「どうした?そんな驚いた顔して」
 私の足をつかんでいた男の人が顔を上げた。
 30歳前後の西洋系の顔が目の前にある。
 薄い堅そうな茶色の髪を短めに切りそろえた顔。太くてきりりと上がった眉も薄い茶色で、優しそうに目じりが少し垂れた瞳も薄い茶色だ。
 彫は西洋系にしては浅めだろうか。顎も細く日本人が好きそうなイケメン。
 いや、世界中が好きそうないい男だ。
 言葉は、問題なく通じているようだ。
「ああ、骨も見えてるような傷がふさがっているのに驚いているのか?」
 男の言葉にやっぱりと息を飲み込む。
 怪我は夢じゃない。骨が見えるほどのやはり重傷だったのだ。そして、今その傷がふさがっているのも夢じゃない。どういうことなんだろう。
「そうだな、普通のポーションはせいぜい血を止めるとか体力を回復させるとかだからな。今のはさっきも言ったが純度100%だ。その上、神殿で聖女の祈りを受けたものだからな」
 は?
 今の話を総合すると、青汁っぽい小瓶のものを飲んだから傷がふさがったということ?一瞬で、あんなひどいけがが治っちゃったってこと?

 ま、まるで、魔法じゃんっ。
 さらに驚いて目を丸くすると、男の人がうろたえた。
「ああ、すまん、いや、驚かせるつもりはなかったんだ。確かに高い品だけど、君に料金を請求するつもりはないから」