side 千桜


「ねえねえ、お母さん私たちね結婚するの」


無邪気に言ったその言葉に


母が悲しそうな顔を見せた。


これはいつの記憶だろう。


小学校低学年くらいかな。


私にとって心にしっかりと刻まれた出来事だった。


「でも、2人は兄妹なんだから結婚なんてできないんだよ」


いつも優しいお母さんの困ったような表情。


「でもでも、私、お兄ちゃんが大好きなんだもん。お兄ちゃんだって大好きだって言ってくれたもん」


駄々をこねても母は首を横に振るだけ。


その夜、仕事から戻ってきた父にはっきりと告げられた。


「千桜、お兄ちゃんのことをそんな風に想ったらいけないよ。
私たちは家族なんだから。
その気持ちはみんなを悲しませてしまうからね。
家族がみんなバラバラになったらお父さん嫌だよ」


優しく諭すような口調だった。