厳しい口調でたしなめたのは、朝の支度を侍女たちに命じていた侍女長だった。
 レオンの要望により、十二夜の間だけキャロルの身の回りを監督しているのである。

「侍女長どの、なぜ城下に行ってはいけませんの?」
「王太子殿下から、キャロル様を城内に留めておくようにと申しつかっております。隣国で悪さをした窃盗団が、エイルティーク国内に入って潜伏しているそうですから、御身の安全のためです」
「それは心配ですこと。けれど、誰にも見つからないように潜伏しているなら、悪いことはしないのではないかしら……?」

 窓の外から、キャン! と甲高い鳴き声が響いた。
 見下ろすと、レオンの愛犬であるゴールデンレトリバーが、庭を駆けまわっている。
 パトリックという名前で、輝く金色の毛並みと大きな体格が美しい犬だ。