高野さんは、私の考えていることが分かっていたんだ。
けど、それは同時に、どうすれば自分が傷付かないで済むか分かっていながら、自分を曲げていない、ということだ。
私はただ、高野さんを見つめることしかできない。
「私は、そっちの方が苦しいって知ってるから」
「────え」
「だから、小森さんが気に入らなかった」
高野さんは昇降口のドアに寄りかかり、雲が覆う空を見上げる。
そして、私に再び視線を移すとふっと唇の端を持ち上げた。
「気に入らないけど、イジメられて欲しいわけではないから。私のことは放っておきな」
その笑みを見て、自分の中にある感情の波が大きくなる。
ずっとずっと苦手だった高野さんは、不器用でとても優しい人だった。本当は知っていた、自分を曲げないでいられる勇気が羨ましかった。
「私のことは放っておきな」なんて、優しくないとそんな言葉なんて絶対に出ないもの。
「えっ、小森さん?!」
私はたまらなくなり、スクールバックを地面に置き、傘もささず昇降口から飛び出した。



